香港で「逃亡犯条例」改正を巡って混乱が続くなか、隣接する深圳に武装警察が集結した(2019年8月18日、写真:ロイター/アフロ)

(福島 香織:ジャーナリスト)

 香港を失いそうなので、深圳(シンセン)を香港の代わりにする気なのか。そう思わせる政策が先日、中国で発表された。

「深圳における中国の特色ある社会主義先行モデル区建設の支持に関する意見」というのを8月9日に共産党中央と国務院が党内で通達し、その全容を新華社が8月18日に報じた。長引くデモで、香港の国際金融センターとしての機能、国際ハブ空港としての機能が麻痺した状態が続くなか、香港の役割を深圳に吸収し、かねてからの広東・香港・マカオを一体化したグレートベイエリア構想の中心地にしよう、ということらしい。この政策が、香港と深圳・広東にどんな影響を与えるのか、考えてみたい。

深圳を「先行モデル区」に、その中身とは

 新華社の報道によると、2035年までに深圳経済特区で実施される「社会主義現代化先行モデル区計画」の目標について、この1月に深圳市の党委員会で討論された。この計画のキーワードである「先行モデル区」とは一体何を意味しているのか。新華社によればポイントは8つある。

 1つ目は、5G、AI、バイオ、ITなど先端科学技術イノベーション産業の先行だ。総合国家科学センター、広東・香港・マカオグレートベイエリア国際科学技術イノベーションセンター、国際科学技術情報センター、医学科学院などを建設し、世界の最先端技術のエンジニア、研究者ら人材を集めて国際イノベーションセンターとする。それとともに、高度な市場化、多元的な自由平等などの文化によって経済競争力を増強させていく。深圳を、民営経済を主体とする経済先行地域にする、という。

 2つ目は、深圳への海外人材の誘致および出入境管理制度の先行だ。海外人材を登用するために出入境管理制度をさらに開放的に利便化し、イノベーション企業や科学研究機構の代表にはグリーンカードの取得を許可していくという。

 3つ目は、GEM(グロース・エンタープライズ・マーケット)の完成である。再融資やM&Aに関わる制度を研究し、企業の創業を後押しする。これは深圳の資本市場の大改革であり、深圳GEM市場を完成させるという。特に気になるのは、「香港マカオ金融市場との一体化と、金融産品の相互認可、人民元国際化推進のための先行テスト、国境を超えた金融管理監督の創新を探る・・・」といった表現だ。「深圳を外貨管理改革のテストケースにする」という表現もあり、深圳で人民元の売買や送金などの規制が緩和されたり、為替市場の自由化が進められたりするのかもしれない。さらに国際組織・機構を深圳に誘致し、エコ産業の発展を推進し、エコ消費、エコ金融を発展させる。また暗号通貨や電子マネーの展開も支援するという。