第3代国際卓球連盟会長を務めた荻村伊智朗氏(1996年3月12日撮影、写真:アフロ)

 目的のために全力を出せる人のことを、僕はずっと羨ましいな、と思ってきた。

 僕も周りからはそう見られているかもしれないな、とは思う。たぶん、ストイックに何かを頑張っているように見えるだろうからだ。しかし、僕が言いたいことは、「全力を出せる」の部分ではない。僕の主張は「目的のために」の方にある。

 僕には昔から、「こうしたい!」と感じることがほとんどなかった。今も別にない。将来なりたい職業から、今日の夕飯で食べるものまで、別に何でもいいと思っている。やりたくないことはたくさんあったが、やりたいことは別になかったし、だから全力を出すべき目的を見出すこともなかなか難しかった。

 努力は結果を伴ってこそ評価される、という部分は確かにある。脇目も振らず頑張って、でも結果が出なかった場合、状況によっては「なに頑張っちゃってるの?」「うわぁ、本気出しちゃってるじゃん」という嘲笑の対象になることだってあり得る。

 それでもやはり、仮に結果がついてこなかったとしても、目的のために全力を出せる人は羨ましいと、いまだに思っている。今回は、そんな全力を描き出す3冊だ。

「トラペジウム」(高山一実)

【アイドルになりたくない女の子なんているんですか?】

 主人公の東ゆうは、本気でそう考えている。

【私、可愛い子を見るたび思うのよ、アイドルになればいいのにって。でもきっときっかけがないんだと思う。だから私が作ってあげるの】

 彼女は、本気でそう考えている。

 その思い込みが、本書の魅力の一つだ。