100、200Mともにもっとも注目される男、サニブラウン。しかし末續慎吾が注目したのは…写真:松尾/アフロスポーツ

「10秒の壁」。

 かつてそう形容された世界の向こう側が、一気に近づいている。

 先月9秒97をたたき出したサニブラウン・ハキーム、日本人史上初の9秒台を記録した桐生祥秀を筆頭に、山縣亮太、小池祐貴、多田修平、飯塚翔太、ケンブリッジ飛鳥が名を連ねる100メートル競走の日本歴代トップテンは、いずれも2017年以降の記録だ。

 9月に開幕する世界陸上、来年に控える東京オリンピックへと、否が応でも高まる期待。しかしこうした躍進の裏側には、「壁」に挑み続けた多くのスプリンターがいたことを忘れてはならない。

 その一人、末續慎吾。

 2003年のパリ世界陸上200メートルで銅メダル、2008年北京オリンピックでは400メートルリレーで銀メダルを獲得。サニブラウンにも破られていない200メートル日本記録保持者。10秒の壁を打ち破ることを最も期待された男――。

 その末續は今なお現役選手として走り続けている。そしてこう言った。

「今が一番、自分に納得できている」

 記録だけを見れば、過去に及ばない。それなのになぜ「今が一番納得できる」のか。日本陸上短距離界を支えてきた男が考え、求め続けて見つけた世界に迫る。

「山縣くんはいいですね。日本短距離界の歴史の結集と言いますか・・・どちらかと言えば、身体というより道理で走るタイプです」