一方でトランプらしさも十二分に発揮していた。大柄の身体を傾け、トランプはこう金正恩に囁きかけたという。

「平壌にマリーナベイ・サンズをオープンさせましょう――」

 マリーナベイ・サンズを運営する「ラスベガス・サンズ」のシェルドン・アデルソン会長は、トランプ氏の大口献金者として知られる人物だ。かつて米国の報道サイトで、トランプが「ラスベガス・サンズ」について日本参入を認めるように安倍首相に迫った(安倍首相は国会で否定)と報じられたこともあるほど、その関係は深い。

2019年4月6日、米国ネバダ州ラスベガスで開かれた共和党ユダヤ人連合の会合で、トランプ大統領の演説に耳を傾けるラスベガス・サンズのシェルドン・アデルソン会長とミリアム夫人(写真:ロイター/アフロ)

 外交消息筋の間では米朝会談の「裏の議題」が“北朝鮮ビジネス”である可能性は常に囁かれている。

「トランプは米朝会談を進めるなかで、信頼を寄せるクシュナー大統領上級顧問に北朝鮮投資計画を指示した、とも言われています。トランプとクシュナーは北朝鮮の鉱山開発などに強い関心を持っているようなのです。実際にクシュナーは北朝鮮問題のキーマンとなっており、今回の板門店で行われた米朝会談にも同行しています」(前出・外交ジャーナリスト)

トランプはビジネスディールにこそ強い関心

 今年2月、ハノイでの第二回米朝会談の際には、側近から「北朝鮮は非核化するつもりがない」と強く釘を刺されながらも、トランプは交渉の席についている。

「今回のDMZ訪問、板門店行きもホワイトハウスは反対していました。大統領の安全確保が十分に確保できないことが第一の理由でした。さらに2017年には米国人青年が北朝鮮に1年半拘束され解放後に死亡するという事件が起きたばかりで、米世論の北朝鮮に対する印象は悪い。そのような非人道的な国の独裁者と、核保有問題を解決しないまま同じテーブルにつくこと自体が問題だという指摘もあったようです。しかし、トランプはホワイトハウス内の反対意見には一切耳を貸さなかった」(米紙記者)

 こうした行動からトランプには北朝鮮の非核化プロセスとか、東アジアの安全保障体制を維持するという発想自体が薄いのではないか、との疑念すら浮かぶ。ホワイトハウス内からも「板門店の米朝会談は、北朝鮮を核保有国として認める行為だ」という批判の声も出ているという。

 先行きが見えないままトランプが米朝会談を続けるのはなぜなのか。トランプは、今も昔もビジネスマンであり、ビジネスディールにこそ強い関心を持つ人物だ。メリットさえあれば金正恩との取引も辞さないだろう。もし会談の主題が”ビジネス”に移りつつあるのだとしたら、それは東アジアの安全保障を大きく揺るがす問題となる。

 果たして米朝の裏側で何が動いているのか、日本政府はその背景を慎重に分析していく必要があるだろう。