医療の世界は“不思議”があふれている。医療従事者にとっては当たり前でも、一般の人には初耳の理解できないことばかり。そこで、水戸協同病院 研修医、東北大学メディカル・メガバンク機構 非常勤講師の光齋久人氏が、医療についての正しい知識を分かりやすく解説する。今回はADHDを取り上げる。(JBpress)
レオナルド・ダ・ヴィンチは注意欠陥多動性症(ADHD)だったかもしれない――。
英キングス・カレッジ・ロンドンのMarco Catani氏らが、5月23日の『Brain』誌オンライン版にてセンセーショナルな論文を発表しました*1。
レオナルド・ダ・ヴィンチといえば、イタリアのルネサンス期を代表する、言わずと知れた歴史上の巨人です。「モナ・リザ」や「最後の晩餐」など人類史に残る絵画をいくつも残しました。
さらに、ダ・ヴィンチの本当にすごいところは、その活動が芸術の分野だけにとどまらなかったことです。「ウィトルウィウス的人体図」に代表される解剖学への造詣の深さや、ヘリコプターや戦車の概念を生み出す科学者としての一面をも持ち合わせていました。
一方で、ADHDは不注意症状と多動性・衝動性症状を主徴とする疾患です*2。原因は不明ですが、一定の割合で遺伝的な影響もあるものと考えられています*3。小児の約3~5%にみられ、約半数が4歳までに発症します。男児が多く、症状は年齢により変化しますが、多動は小学校低学年頃に最も顕著となります。一方で、不注意や衝動性は比較的持続する傾向にあるようです。
仕事への取りかかりの悪さ
さて、ダ・ヴィンチとこのADHDにどのような関係があるのでしょうか。
ダ・ヴィンチは先延ばし癖があることでもよく知られています。1478年に画家として請け負った教会の祭壇画は、前金をもらっていたにもかかわらず、結局完成させることができませんでした。かの有名な「モナ・リザ」も未完の作品です。1503年から描き始め、亡くなる1519年まで書き続けていたものの、結局ダ・ヴィンチの納得いく完成には至りませんでした。