しかし、英ロイター通信によると、JDIに出資予定の企業連合の広報担当者は、2019年6月18日に、総工費60億ドルを予定している有機ELパネルの工場建設と資金調達に関して、中国・浙江省の支援が固まったことを明らかにしたという。中央政府が示した難色を克服して、浙江省の支援が本決まりになったのであれば、ハーベスト・グループの計画は前進する。それはJDI蘇生への追い風にもなる。
アップルが手放さなかった「生殺与奪」の権利
もう一つの不確定要素は、JDIの最大の取引先である米アップルとの関係だ。
今回、台中連合がJDI支援に動いた際に大きな障害となったのが、アップルとの契約関係だった。JDIが白山工場建設のためにアップルから借りた債務の返済条項について、台中連合は、アップルが緩和することを出資の前提条件としていた。
これを受けて、アップルは3月末に譲歩案は、2019年度返済分の一部を20年度に繰り延べる案だった。また、アップルは、5月末にも、再度返済繰り延べに応じている。
しかし、台中連合が問題視していた「トリガー条項」の改訂には応じなかった。「トリガー条項」とは、JDIの現預金が300億円を下回った場合、アップルは債務残高の全額を即時返済することを求めるか、白山工場を差し押さえることができるというものだ。しかし、そもそもアップルがJDIに発注し続けなければ、JDIの現預金残高はたちまち枯渇する。つまり今後の経営再建の過程でも、アップルはJDIの「生殺与奪」の権利を握り続けことになる。これを嫌って、台中連合に加わる予定だった2社が、既に途中離脱したという。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は、2019年6月18日に、JDIへの出資予定者が、アップルに対し、一部債務の免除、最大200億円の出資、2年間の発注保証などを求めたのに対して、アップルはこうした要求の検討を示唆したと伝えた。
その結果、JDI株の商いが膨らみ、出来高は東証1部でトップに立ったという。
アップルは、今までは同一部品を数社から購入する「マルチベンダー方式」を取ってきた。このため1社に出資するのではなく、生産ライン自体への投資を支援する方式を取ってきた。JDIに出資するなら、このビジネスモデルを変更することを意味する。
アップルが持つJDIの「生殺与奪」の権利を改訂するのか、出資してビジネスモデルを変更するのか、注視しておく必要がある。
「モノ言う株主」の効用
そしてもう一つの不確定要素は、JDIの出資者になっている「モノ言う株主」の存在だ。
新しく加わる香港の「オアシス・マネジメント」は、「モノ言う株主」であり、任天堂、京セラ、パナソニック、東芝等に、戦略転換等の提言を行ってきた実績がある。
また、現在のJDIの株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントというファンドも「モノ言う株主」である。同ファンドは独自にJDIに投資し、現在は発行済み株式の8.92%を保有している。このエフィッシモ、旧村上ファンド出身者が運営する、シンガポールに拠点を置く投資ファンドだ。旧村上ファンド同様に、株主提案などに積極的な「モノ言う株主」として知られている。エフィッシモは、水面下でJDIと官民ファンドINCJにさまざまな条件を要求し、官民ファンドから追加支援を引き出した影の功労者だという。
同ファンドが提出しているJDI株式の大量保有報告書の「保有目的」欄は、今年3月に「純投資」から「投資及び状況に応じて経営陣への助言、重要提案行為等を行うこと」に変更されている。官民ファンドのINCJの傘下で、社風の違う3社の連合体であるJDIは機動的な経営がなかなか難しかった。その中で、エフィッシモによる助言や提案の意味は大きい。
確執を乗り越えシャープとINCJの協力も検討すべき
最後の不確定要素としてシャープの存在にも触れておきたい。
シャープが経営危機に陥った際、その支援に名乗りを上げたのが、産業革新機構と台湾の鴻海だった。両社がシャープの争奪戦を展開したが、シャープが選んだのは成長戦略に優れた鴻海だった(詳細は拙著『シャープ再建』を参照)。
産業革新機構は、JDIにシャープのディスプレイ事業を統合させ、オールジャパンのディスプレイ企業を作ろうと目論んでいたが、鴻海に油揚げをさらわれ、煮え湯を飲まされた格好になった。だが、互いにメリットが見いだせるのであれば、過去の確執を乗り越えて、シャープがJDIの救済に名乗りを上げる価値は十分あるのではないか。
実際、シャープの戴正呉社長は、2019年6月15日の日本経済新聞の取材に応じ、JDIの支援も「要請があれば検討する」とコメントしている。
外国資本と経営陣を受け入れ、再生に成功したシャープの経験は、中台連合に支援を仰ぐJDIにとって、何よりも参考になるはずだ。そのためにはシャープとINCJの関係者には、過去の怨念を乗り越えて提携してもらいたい。ディスプレイ産業を研究する者として、日本のディスプレイ産業の競争力を強化するために、私は提言したい。