TPK離脱発表の翌6月18日は、JDIの株主総会の日だった。混迷のなか、都内で開かれた総会で、同社の月崎義幸社長は、「誠に申し訳なく、おわび申し上げる」と株主に謝罪したが、当然ながら、株主からは批判が相次いだ。

「いま合意しているとされる相手とは、(本当に)合意しているのか」との株主からの質問には、「800億円はきちんとした形で調達できるよう交渉している」などと、10月に社長に就任する予定の菊岡稔・常務執行役員が説明した。しかし、「交渉している」という経過説明だけでは、株主の納得を得られるはずもない。議案はすべて可決されたものの、新たな支援枠組みに対する株主の懸念を払拭したとはとても言えなかった。

公募に応じた株主は大損害

 JDIの事業開始は、2012年4月。官民ファンドである「産業革新機構」(現INCJ)が第三者割当増資で2000億円を出資し、ソニー、東芝、日立の3社の中小型ディスプレイ事業を統合して設立された。韓国・台湾のメーカーに決定的な遅れをとってしまった国内メーカーの失地回復を目標にして、経済産業省のバックアップの下で設立された。

 設立当初は、スマホの高機能化と市場拡大に後押しされ、事業は好調だった。統合から約2年で、JDIは東証一部上場を果たす。公募・売り出し価格は900円、時価総額は5400億円規模となる大型上場であった。

 しかし、公募時に公表していた利益を短期間のうちに何度も下方修正したことなどから、すぐに株価は3分の1ほどに急落。その後も公募価格を上回ったことがなく、今年6月18日時点で16分の1以下の55円という有様だ。公募に応じた株主をはじめ多くの株主に、多大な損失を与えている。

【図2】JDIの株式公開と株価推移(筆者作成)
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中台連合から降りたTPKが抱いた不信感

 苦境に陥ったJDIの支援に乗り出した台中連合の中で、調整役を担っていたのは、中国のハーベスト・グループのウィンストン・リー氏だった。リー氏は、中国での有機EL工場建設を目論んでいたのだが、その計画が一時暗礁に乗り上げてしまった。そこでリー氏は調整から一歩退くこととなり、JDIとの交渉も混乱を余儀なくされていた。

 この事態を収拾したのがTPKだった。TPKがハーベスト・グループの出資分の一部を肩代わりし、台中連合が最大800億円の金融支援するスキームが出来て、JDIとの交渉は今年4月12日にまとまった。TKPは、台中連合の要だったのだ。

 というのも、台中連合に名を連ねる企業グループの中で、製造業はタッチパネルを生産するTPKのみで、それ以外は全て投資ファンドだ。JDIからしてみれば、TPKとは事業の補完関係を活かし新たな価値創造できる関係にあった。そのTPKが今回離脱することになったのだから、これはJDIにとって大きな痛手なのだ(【図1】参照)。