このためアミン・ライス氏は自らが創設したPANからも距離を置かれるというか「実質的な切り捨て」(PDIP幹部)状態となり、PANは政党として現実路線に舵を切ったとみられている。
プラボウォと大統領の関係修復の行方
このように野党連合が崩壊しつつある中、プラボウォ陣営のグリンドラ党との連携を再確認しているのがイスラム政党の「福祉正義党(PKS)」で、マルダニ・アリ・セラ党中央幹部委員長は6月7日に現地紙「テンポ」に対して「PANも民主党も野党連合に留まると信じている」との楽観論を示した。
これはSBYの長男アグス氏がジョコ・ウィドド大統領、メガワティ元大統領と与党連合の中心人物と相次いで面談したことなどを受けて民主党さらにPANの「野党連合離れ」報道が相次いでいることを受けて、その動きを牽制する狙いがあるとみられる。
マルダニ氏は「連合を組む相手を変えるというのは政党の政治姿勢としてよろしくないのではないか。国家への貢献はどちら側にいてもできることだ」と述べ、これまでの野党連合の維持を訴えた。
こうしたPKSの焦りの背景にはプラボウォ氏が党首を務める野党連合の中核であるグリンドラ党に対しても与党連合が「誘いの手」を伸ばしているという一部情報があり、全く「お誘い」がないPKSが孤立することへの懸念があるともみられている。
今後のインドネシア政界の再編の最大の焦点はジョコ・ウィドド大統領とプラボウォ氏という大統領選を戦った両者による会談で、そこで「リコンシリアシ(和解)」が実現するかどうかという点にある。
国民の大多数が敬虔な祈りの中にあるラマダンの期間は、こうした和解には最適の時期としてプラボウォ氏と同じ国軍幹部だったルフット・パンジャイタン海洋担当調整相やユスフ・カラ副大統領などが両者の会談実現を目指して仲介に水面下で動いたもののいまだに実現していない。
PDIP幹部はプラボウォ氏がジョコ・ウィドド大統領との直接会談を実現させるには「まず、メガワティ元大統領と直接会って調整することになるだろう」との見方を示す。
これはメガワティ元大統領がジョコ・ウィドド大統領の所属する政党PDIPの党首であると同時に、メガワティ元大統領が依然としてインドネシアの「キングメーカー的存在」あるいは「政界の黒幕的存在」であることを示しているといえる。
6月5日にメガワティ元大統領の私邸に参集したインドネシア政治の中枢を担うそうそうたる顔ぶれからもそうした立場は裏付けられている。
インドネシアの次の5年間を担うジョコ・ウィドド政権の安定的運営を左右する野党連合解体に伴う政界再選とプラボウォ氏の今後の去就。
ベストのシナリオはジョコ・ウィドド大統領とプラボウォ氏の「和解」実現でグリンドラ党まで含めた大与党連合による「挙国一致内閣」「大政翼賛的議会」の形勢である。
そして最悪のシナリオは、5月21日、22日にジャカルタ中心部で起きた死者7人、逮捕者400人以上をだした「選挙不正糾弾デモ」に名を借りた騒乱状態を画策した黒幕としてすでに身柄を拘束されているプラボウォ氏の側近や元軍幹部に連座してプラボウォ氏自身の身柄拘束という幕切れである。これは同時にプラボウォ氏の政治生命の終焉をも意味するため、治安当局はメガワティ元大統領やジョコ・ウィドド大統領などとの慎重な協議が求められることになる。
6月28日にも予想される憲法裁判所によるプラボウォ陣営による「不正選挙」の訴えに対する審査結果発表に向けて各政党や治安当局の思惑が交錯し、インドネシアでは再び政治的緊張が高まろうとしている。