普通とは違うことを「自分が」認める

「ルーツの数だけ『個性』が増えるのだとすれば、僕はハーフではなく、ダブルだ」

 日本では、まだ自分たちと違うことを理由に他者アイデンティティを特別視する風潮が根強く残っているように感じる。「普通とは違うこと」を受け入れなければいけないのは、周囲だけではなく、本人も同じだろう。それができれば、秘められた可能性は広がる。それは本人だけではなく、他者や社会にもとっても有益であるはずだと僕は思う。

 3月30日、初めて書籍(『W~ダブル~人とは違う。それでいい』ワニブックス刊)を出させてもらった。日本人の父とドイツ人の母の間に生まれた僕が、ブンデスリーガでプレーするサッカー選手になるまでの日々を振り返った一冊だ。

 ふたつの祖国を持つ自身のキャリアは、日本とドイツというダブル(W)だけでなく、日本代表とクラブ、レギュラーと控え、個人と組織など、数多くのダブルの間(はざま)で戦ってきたことと、ともにあった。同時に強いコンプレックスが原動力になったことも。

 僕の半生を綴ったこの本は、いわゆる成功者の自伝とは別のものだろう。「結果」という意味で考えれば僕は「成功」とは縁遠い人間だ。だがそんな「酒井高徳」の言葉が、自分に自信のない人や、コンプレックスに悩む人たちが、少しでも勇気づけられたら、幸せだ。