このように、革命防衛隊の海外工作を一手に引き受けるクドス部隊だが、ほとんどの海外工作でスレイマニ司令官が直接動いており、クドス部隊といっても、実質的にはいわば「スレイマニ機関」のようなものといえる。スレイマニ司令官は、指揮系統ではジャアファリ革命防衛隊総司令官の下になるが、ハメネイ最高指導者と直結する特別な立場にあるようだ。

シリアの「シーア派化」「イラン化」を推進

 ところで、現在、ISが放逐されたシリア東部の各県にイラン革命防衛隊が進駐し、多くの町村を支配している。そこで革命防衛隊が行っていることは、いわば“シリアのイラン化”である。

 米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」によれば、シリア駐留イラン革命防衛隊は、シリアのスンニ派住民にシーア派への改宗を呼びかけているという。とくに破壊がひどかった東部の旧IS支配地域で、困窮するシリア国民にライフライン建設などの公共サービスや食料配給などを行っており、さらにシーア派に改宗した住民には、仕事の斡旋や、通行許可のための身分証の発給なども行っている。親イラン派の民兵組織への参加者に、月額200ドル(約2万2000円)を支給している地域もあるようだ。ペルシャ語の学校も作っているともいう。そのやり方は、かつて支配地域で住民たちに自分たちの思想を強制したり、異教徒に強制改宗を迫ったりしたISの手法と共通している。

 シリアにおいては、瀕死のアサド政権を救ったイランは、ロシアとともにアサド政権より上位にある。革命防衛隊はその立場をフルに利用して、シリア国内のシーア派化・イラン化を進めているというわけだ。

 ただし、革命防衛隊の活動はシリア東部にとどまらない。彼らの狙いはイラクからシリア、レバノンまで至るイラン傀儡支配圏を確立することだ。壮大な計画だが、すでにイラクではほぼ実現しており、シリアでもかなり進行している。2019年1月、革命防衛隊はイスラエルが占領しているゴラン高原を砲撃。イスラエル軍はその報復として、首都ダマスカス郊外の革命防衛隊武器庫を空爆した。イスラエル軍はこの3月27日にもアレッポ近郊の革命防衛隊武器庫を、4月13日にはハマ県の革命防衛隊軍事拠点を空爆している。革命防衛隊の拠点はいまやシリア各地に建設されており、それを警戒するイスラエルとの一触即発の状況になっているのだ。

 革命防衛隊の手法からすると、今後、直接自分たちが手を下さないとしても、配下の現地民兵にテロをやらせることは充分に予想される。対象はまずはイスラエル、さらにはシリアやイラクに駐留する欧米の部隊というところか。

 いずれにせよ、イラクはともかく、国境を接するシリアが革命防衛隊の縄張りとなれば、イスラエルとの緊張激化は避けられない。イランの問題は、とかく核合意の維持に焦点が限定されがちだが、革命防衛隊がイラクとシリアの紛争を利用して密かに進めてきたイラン傀儡地域拡大の工作は、確実に紛争の火種を拡散してきた。こうした活動を放置すれば、いずれイラン=イスラエルの全面戦争になりかねない。

 形式や手法はともかく、革命防衛隊に対しては、その危険な裏工作を阻害するために国際社会は強い圧力をかけるべきだろう。