子飼いの部下を守りたい習近平
さらに中国の場合、ここに権力闘争の要素も加わってくる。
“習近平はこの事故の責任を江蘇省長の呉政隆に押し付けようとしている”という見方を香港蘋果日報などが報じている。
江蘇省の書記である娄勤倹は“習家軍”とも呼ばれる習近平に忠実な子飼いの部下集団の1人。もとは陝西省長だ。
実は今中国で2つの政治スキャンダルが注目されているのだが、それらに絡む事件がともに陝西発である。1つが秦嶺別荘開発問題、もう1つが千億鉱権事件だ。いずれも陝西省の党委員会の利権が根深く絡むとみられ、下手をすれば当時の書記であった趙楽際(現政治局常務委員で中央規律検査委員会書記)や当時の省長の娄勤倹の進退にも影響を与えかねない。特に秦嶺別荘開発問題は娄勤倹の関与が疑われていると香港の明報などは報じている。
こうしたスキャンダルの芽を抱えている娄勤倹にとって、今回の爆発事故はさらに立場を危うくしかねない。
今回の事故は起こるべくして起きたものであり、しかもその原因は江蘇省の生産安全監督管理における怠慢と癒着が背景にある。また、爆発直後に娄が現場に駆けつけず、習近平に指示されて1日遅れで現場入りしたことを「当事者意識が薄い」と党内から批判する声も出ている。もし、この爆発事故の処理がこじれて重大環境問題や地域住民のデモなど治安問題に発展すれば、書記である娄の責任が問われることになる。
だからこそ、習近平としては娄を守るために、早々に事態を鎮静化させたい。そのための報道統制と世論封鎖指示なのだという。さらには、省長の呉政隆に責任を押し付けてしまおうとしているというわけだ。呉政隆はかつて薄熙来の部下であったが、薄熙来失脚に巻き込まれずに習近平政権下で順調に出世を遂げてきた。だが、必ずしも習近平から信頼を得ているわけではないといわれている。
事故は今後もなくならない
こうして見てくると、この爆発事故は20年来続く中国の生産安全問題のほんの1つにすぎず、環境汚染問題や中国社会が直面する他の問題と同様、その病巣は政治体制と人命軽視という中国社会の体質の問題に集約される。
そう考えると、こうした事故というのはこれからもなくならない。それこそ政治体制が変わり、社会の価値観が根底から変わらない限り、状況は改善しないだろう。
そこで私が非常に怖く思うのは、今後10年ほどで国内外に100基以上はできるであろうと予測されている中国製原発の安全運転の問題なのだが、それはまた別の機会に紹介するとしよう。