ある村長(むらおさ)が、中世のペスト大流行のときに、猫を大事にしていた地域には被害が少なかったという話を思い出しました。そして「猫を飼おう」と提案。そのときにもコトルに猫はいましたが、ネズミに比べ猫の数が圧倒的に少なかったのです。

 猫を増やすと、あっという間にネズミがいなくなりました。それから、町をあげて猫をかわいがるようになったそうです。「一家にひと猫」がスローガンだった時代もあったといいます。

 猫たちのおかげで、現在コトルにネズミは1匹もいないとのことです(何人かが、胸を張ってそう話してくれましたが、本当かどうかはわかりません)。

 現在でも町の人は、猫たちを大事にしています。

 この黒猫はネェロ(nero)。イタリア語の“黒”という意味で名付けられ、子猫のときから多くの町の人にかわいがられてきました。ところが大きくなるにつれて性格が悪くなり、若い雄猫をいじめるようになってしまいました。そうすると人々は「もうこの猫は、“黒ちゃん”なんかじゃない。暴君ネロだ」と、名前の意味合いを変えて呼ぶようになりました。

 ネロはふっと意地の悪い顔を見せるときがあります。

 ネロが若い猫をいじめないか、町の人々は注意を払っています。ネロが散歩していた若い雄猫にいきなり因縁をつけ、追い払う場面に出くわしました。若い雄猫が「ぎゃー」と一声。すると、「ネロ、やめなさい!」と家の中から年配男性の野太い声がしました。その場面を見ていたとは思えないのにです。

 この町の人たちの猫への見守りはすごいと思った一場面でした。