その真偽はともかく、現在の文在寅政権が北朝鮮に非常に宥和的なのは誰の目にも明らかです。文政権は南北の「連邦制」を目標に掲げていますが、そのプロセスにおいて最大の障害になるのは、在韓米軍の存在でしょう。周知のとおり、北朝鮮にとって在韓米軍は「邪魔な」存在ですし、ついでに言えば、北東アジアのパワーゲームで優位に立ちたい中国にとっても朝鮮半島における米軍の存在(ひいては、米韓同盟)が邪魔になっていることは火を見るよりも明らかです。

 しかしだからと言って、文在寅大統領からトランプ大統領に「米軍は韓国から出ていけ」とは言えません。先日ようやく妥結を見ましたが、アメリカから強く要望された在韓米軍駐留経費負担増額について、韓国がなかなか応じる素振りを見せなかったのもそういう背景があったからと見ることもできます。つまり、駐留経費の負担増を強く求めるトランプ大統領が交渉不調に腹を立てて(あるいは北朝鮮との非核化交渉を前進させる意味からも)、米国側から在韓米軍の撤退や縮小を言い出す状況をつくり出そうとしているのではないか、と勘繰る識者もいるほどです。

金正恩は核を手放さない

 こうした中、アメリカがどういう動きを見せるのかも読みづらくなっています。というのも、トランプ政権による「韓国からの撤退」というのは、あながち奇想天外な選択肢とは言えないのです。かつてカーター政権でも、ブッシュ(父)政権でも在韓米軍の縮小や撤退の方針は打ち出されてきました。米国の著名なリアリストからも、しばしば「なぜ在韓米軍が必要なのか」という見解は提起されてきました。

 トランプ大統領自身、3年前の選挙キャンペーン以来、中東からも、ヨーロッパからも、アジアからも、コストがかかり、兵士を危険にさらし、かつ、米外交の手足を縛るような米軍の海外駐留はできる限り減らしたい、という主張を繰り返し表明してきました。トランプ大統領は、国際秩序の維持などという抽象的なスローガンよりも、具体的な費用対効果にこそ関心があるようです。さらには、同盟国だから特別扱いはしない、「自分たちの安全保障は自分たちでやれ」という、かつてニクソン政権が強く打ち出した方針を自らの政策に重ねていると思われます。

 かりに在韓米軍が撤退するような事態に陥ったらどうなるか。地政戦略的には、これまで朝鮮半島の38度線に引かれた防衛ラインが、韓国と日本を分かつ対馬海峡まで下がってくることを意味します。これは日本としては看過できない状況です。日本は、北朝鮮を通して半島全体に影響力を拡大しようとする中国とわずかな海を隔てて、まさに最前線国家になるわけですから、日本の安全保障戦略は劇的な変化を強いられることになります。

 一方の北朝鮮からしてみれば、韓国に自分たちに融和的な文在寅政権があり、アメリカに対北朝鮮強硬路線を転換したトランプ政権がある現在は、絶好のチャンスのはずです。