(三矢 正浩:博報堂生活総合研究所・上席研究員)
私の在籍している博報堂生活総合研究所は、1981年の設立から現在に至るまで、「生活者発想」に基づいて生活者の行動や意識、価値観とその変化をみつめ、さまざまな研究活動を行っています。
前回に引き続き、世の中で生じている事象に対して、研究所に蓄積された研究成果やそれらに基づく独自の視点により考察を加えてまいります。読者の皆様にとって、発想や視野を広げるひとつのきっかけ・刺激となれば幸いです。
原宿で見た、意外な支払いの光景
生活総研では昨年(2018年)、お金の未来に関する研究「進貨論~生活者通貨の誕生~」を発表。キャッシュレス化などの技術進化によりお金の形がどんどん変わっていくと、それを扱う生活者の意識や価値観も、何年か先の社会ではこんなふうに変わっていくのでは? という未来の提言を行いました。
そんな研究テーマのせいもあってか、普段お店で買い物をしている時も、他の人がどんなふうにお金を扱い、支払いをしているかがついつい気になってしまいます。
今年(2019年)1月下旬、東京・原宿のコンビニに立ち寄ったときのこと。店頭には、とあるQRコード決済システムについてのポスターが貼ってあり「キャンペーンで還元したお金が使える!」旨のフレーズが。「これは新しい決済の様子が見られるよい機会だな」と思い、入店してしばらく支払いの様子を横目で見ていました。
しかしその後、予想とは真逆の状況が起こりました。
コンビニで買い物をするお客さんの多くが、「現金」を使って支払いをしていたのです。
原宿という場所柄もあり、立ち寄るお客さんの多くが10~20代と思しき若者層。購入していくのは惣菜パンやおにぎりなどの食品、菓子、飲料、タバコなどで、合計しても1000円以内に収まりそうな金額。お客さんのほとんどは滞在時間がごくわずかで、入店してすぐに目当ての品物を手に取り(タバコは店員さんにオーダー)、支払いを済ませて出ていきます。
であれば、財布からいちいち現金を出すよりも、カードやスマートフォンの電子マネーをサッとかざして支払ったほうがスピーディーのはず。と、思うのですが、多くの人が現金で支払っていきます。