栗山さんが徹底する「オーダーメイド」の姿勢

 他にも、チームの中心選手のひとり宮西尚生投手を引き合いに、データの使い方に言及している箇所があります。

「これからの野球は、数字=データをどう使うかということが、ますます重要になってくる」
「データは宮西が調子を落としていることを示していた。ただ宮西は、明らかに調子は落ちているのに、相手と駆け引きしながら抑えてしまう。だから、どう使うかが重要なのだ」

 データよりも選手の肌感覚に任せた方が結果が出るときもある。つまり、今、起きていることの中でデータなのか、肌感覚なのか、そうした柔軟性を持つことが重要なのです。

 引用させていただいた箇所に共通するのは、栗山監督が選手一人ひとりに対して、すべてオーダーメイドの対応で臨んでいる姿勢です。どんなことにも絶対の正解はなく、だからいつ、何を教える・伝えることができるかを、考えていることがよくわかります。

稚心を去る、その先にあるリーダーの資質とは

 この本のハイライトはタイトルにもなっている「稚心を去る」だと感じます。

 人には「大人の心」と「子供の心」がいつも共存をしていて、どちらかがつねに顔を出す。調子がいいときは誰だって「大人の心」でチームに貢献できる。ただ疲れたり、調子が悪かったりすると「子供の心」がでてきてしまって、チームに貢献できず、自身の成長を妨げてしまう。

 自分にも思い当たる節があって、改めて自省する言葉になりましたが、栗山さんの解釈はそれだけにとどまりませんでした。指揮官として選手たちに、

「『子供っぽい心』を出させてしまったときは、いつも責任を感じてしまう。どうして『大人の心』を引き出してあげられなかったのか、と。結果が出ていれば、自然と『大人の心』が出てきて、誰でも『チームのために』となる。<中略>難しいのは、結果が出てないときにいかに『大人の心』を引き出すか。きっとそれを引き出すのが、監督の仕事なんだと思う」

 つまり、わがままにさせてしまった、子どもっぽい心を出させてしまったのは、自分の責任であると、自らに問うているわけです。

 本書ではこれだけでなく、野球界のみならず多くの偉人や識者たちの言葉から、指導する立場の人間の責任(指揮官の責任)を紐解いています。それは、先にも書いた通り、多くのリーダーにとって「ヒントとなる答え」です。

 ぜひとも、多くの方に手に取って頂きたい一冊です。