「以前、筑紫哲也さんと、『番組を存続させるためには7%の視聴率が必要だけど、10%以上を狙うと自分がやりたい内容とは違う番組になっちゃう』と話し合ったんです」(田原)。「同感ですが、最近はその基準も5~6%まで低下しているような気がします」(大島)

 テレビ不況の時代と言われる。テレビへの広告出稿量減少のあおりをうけ、番組制作費が削減されている。中でも苦境にあるのが、カネはかかるが視聴率に結び付きにくいドキュメンタリーだ。今回は、あえてそのジャンルに挑戦する大島新氏に、ドキュメンタリーを取り巻く現状を聞いた。(構成:阿部 崇、撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)

田原総一朗氏(以下、田原) 大島さんのことを知らない読者の人もいるかも知れないので説明しておくと、僕もお世話になった映画監督・大島渚さんと女優・小山明子さんの息子さんで、現在はテレビ・映画の制作会社「ネツゲン」の代表を務めていらっしゃる。そうですよね?

大島新氏(以下、大島) はい。父が生前、大変お世話になりました。

テレビや書籍で歴史が人気を呼ぶ理由

田原 いま大島さんの会社は、テレビではどんな仕事をされているんですか。

大島 例えば、NHK-BSの『英雄たちの選択』という磯田道史さんがMCをしている歴史番組や、民放では毎日放送の『情熱大陸』などを制作しています。

田原 『情熱大陸』は僕も出させてもらったのでよく知っていますが、NHKの歴史番組ではどんなことをおやりになっているんですか?

大島 歴史上の人物の運命を分けた大きな決断について、実際には選ばなかった「もう一つの選択肢」だったらどうなっていたかを含め、その決断を掘り下げ検証する番組です。

田原 磯田さんは、出版界の歴史ブームをけん引しているような人ですけど、テレビでも歴史が人気なんですね。なぜ歴史がこんなにブームになっているんですかね。

大島 私も正確なところは分かりませんが、なんとなく感じているのは、「現代の日本は、どうやってできてきたか」ということに対する関心が高まっているんじゃないでしょうか。もう一つは、明治維新を再検証したいと考えている人が増えているような気もします。つまり、明治維新の過程で形成された、いわゆる「薩長史観」に疑念を持ち始めている人が増えているように感じます。そういう観点から歴史番組や関連書籍が注目を集めているんじゃないでしょうかね。

田原 つまり薩長と対峙した幕府側の功績を再評価しようということですか。

大島 そうですね。江戸時代の良さを見直そうという意識もあるでしょうし、薩長主導でつくった明治政府の問題点を再検証しようという思いもあるように感じます。

 そういえば、田原さんは滋賀県の出身で、言ってみれば彦根藩の出ですよね。だから自分の中には反体制的な気持ちがある、と書かれているのを読んだ記憶があります。

田原総一朗:東京12チャンネル(現テレビ東京)を経てジャーナリストに。『朝まで生テレビ』(テレビ朝日)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)などに出演する傍ら、活字媒体での連載も多数。近著に『AIで私の仕事はなくなりますか?』 (講談社+α新書) など。

田原 僕は幼稚園に行く前から「薩長」という言葉になじんでいたんです。

 彦根藩の殿様は、桜田門外で尊王攘夷派に殺された大老・井伊直弼でしょう。

 だから、幼い僕にいつも祖母が「政治家や役人の世界に進んじゃダメだ。なぜなら今は薩長の時代だから」と言い聞かせてくれたいたんです(笑)。

大島 薩長の世の中だから、彦根の出身者は頑張っても出世できないと?

田原 そう。

大島 田原さんの幼少時代には、まだそんな意識が当たり前だったんですね。