しかし、2002年10月に北朝鮮がウラン濃縮プログラムを進めているという疑惑が浮上し、2003年1月には北朝鮮は核拡散防止条約(NPT)からの再脱退を決めた。この年12月にはKEDOは軽水炉の建設工事を中断し、2006年5月には軽水炉計画は完全に中止されたのである。
金正恩から見たら「アメリカは約束違反」
短命に終わったこの「米朝枠組み合意」の歴史は、アメリカにとっても、北朝鮮にとっても快いものではなかった。しかし、「核というカードがいかに有効なものであるか」を北朝鮮は十分に認識したのである。
そこから、アメリカ本土を核攻撃する能力を持つために、大陸間弾道ミサイルと核爆弾の開発に全力をあげる。そして、度重なる実験の結果、その実現間近まで行ったところで、米朝首脳会談という運びになったのである。北朝鮮のような小国が世界一の大国アメリカと対等の立場で首脳会談ができるのは、「核兵器のお陰」なのである。
したがって、北朝鮮は、然るべき見返りがないかぎり、核開発を容易には放棄することはないと考えたほうがよい。
体制維持のための第二の方法は、アメリカのみを相手にするということである。中国やロシアは支援してくれる兄貴分であり、日本や韓国はアメリカの手下である。北朝鮮は、アメリカと話をつけることができれば、体制は維持できると考えている。日韓両国は、経済的な協力を得られるかぎりにおいて付き合うが、それ以上に期待することはない。
祖父や父が推進してきたこの姿勢を金正恩も踏襲しているが、問題なのは、米朝首脳会談を行ったにもかかわらず、1994年の米朝枠組み合意のようなメリットがまだ何も現れてこないことである。
北朝鮮の最大の不満は、核実験もミサイル発射も中止しているのに、制裁解除がないことである。昨年6月の米朝首脳会談では、アメリカは「一括、即座の非核化」という要求を、北朝鮮に譲歩し「段階的非核化」で決着させた。金正恩にしてみれば、非核化が段階的ならば、制裁解除も段階的でよいはずである。
米朝首脳会談後の共同声明では、非核化については、「北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて取り組む」と記されている。しかし、アメリカが要求するCVIDのうち、V(検証可能な)やI(非可逆的な)については一切言及がない。しかし、トランプ政権は、CVIDが実現しなければ、制裁解除はないと言い続けている。
金正恩はこれを約束違反と判断しても不思議ではない。そこで、1日の「新年の辞」で、「制裁を続けるなら新たな道を模索せざるを得なくなる」と述べて、アメリカを牽制したのである。
昨年6月の共同声明では、「トランプ大統領は、北朝鮮に対して安全の保証を提供することを約束した」とあるが、金正恩は、これで本当に金王朝の継続がアメリカに認められたとは思っていないであろう。