(加谷 珪一:経済評論家)
FRB(連邦準備制度理事会)が、利上げの打ち止めを検討していることが明らかとなった。見かけ上、金利の引き上げを強く批判してきたトランプ大統領の要請に応えた形だが、それだけが打ち止めの理由ではない。FRB内部でリセッション(景気後退)に対する警戒感が高まっていることが最大の要因であり、そうだとすると、米国の景気もそろそろ曲がり角となる可能性がある。
機械的な利上げは次回で打ち止め?
米国の中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)は2018年11月29日、11月のFOMC(連邦公開市場委員会)の議事要旨を公開した。多くの参加者が今後の景気の先行きに不透明感を示しており、これまで四半期ごとに行ってきた機械的な利上げを一時停止する可能性を示唆した。
米国と中国は全面的な貿易戦争に突入しているが、足元の米国経済は堅調そのものといってよい。米商務省が発表した米国の7~9月期のGDP(国内総生産)成長率は、物価の影響を考慮した実質で3.5%(年率換算)のプラスだった。4~6月期は何と4.2%増だったので、かなりの高成長が続いている。
米国の景気を牽引しているのは旺盛な個人消費である。雇用環境が良好で、失業率は48年ぶりの低水準となっており、労働者の所得が拡大している。これに伴って企業の業績も拡大しており、設備投資も堅調に推移している。
まさに非の打ち所がない状況だが、なぜFRBは今後の景気に不透明感を持っているのだろうか。その理由は、説明するまでもなくトランプ・リスクである。
米国経済の巡航速度は2%台の成長率とされている。つまり、現在の米国経済は潜在成長率から考えると、スピードを出し過ぎということになる。潜在成長率を超えてGDPが拡大しているのは、トランプ政権が大規模な減税とインフラ投資を行っているからである。
トランプ氏が大統領に就任した時点で、すでに米国は順調に経済を拡大しており、本来であれば、大規模な経済対策は必要なかった。だがトランプ氏は公約を実現するため大規模減税に邁進。その結果、米国経済は、元気な人にエナジードリンクを飲ませる状況となり、巡航速度以上の成長を達成した。