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ドゥテルテ比大統領が「暗殺部隊」創設を計画、人権団体は警戒

フィリピンのマニラ国際空港で演説するロドリゴ・ドゥテルテ大統領(2018年6月2日撮影、資料写真)。(c)AFP/ACE MORANDANTE / PRESIDENTIAL PHOTOGRAPHERS DIVISION〔AFPBB News

(文:青木伸行)

 フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領は11月20、21の両日、首都マニラに中国の習近平国家主席を招き入れ、首脳会談では南シナ海における石油・天然ガスの共同開発や、鉄道などフィリピンのインフラ整備、中国の広域経済圏構想「一帯一路」で協力することで合意した。

 2016年6月の就任から約2年半が経過したドゥテルテ大統領は、南シナ海の領有権問題を「封印」「棚上げ」し、経済、外交、安全保障の軸足を、長年の同盟国である米国から中国に移す「ピボット(旋回)戦略」を、いっそう強く推し進めている。ドゥテルテ大統領の真意と狙い、フィリピンの事情を探ってみたい。

「米国との決別」が理想なのだが

 一部メディアには、ドゥテルテ大統領が中国と米国とを「両天秤にかけている」との論調が散見される。つまり、どっちに転んでもいいように二股をかけていると言うのだが、むしろ理想と現実とを両天秤にかけているとみた方が、実態に即しているだろう。

 ドゥテルテ大統領が思い描く理想とは、軍事的にも経済的にも米国に依存しないフィリピンである。これについては、ドゥテルテ大統領自身が就任当初、米国と「決別する」と言い放ったことで衝撃を与えたが、その思いは今なお、彼の本音であり理想なのだという。その根底にあるのはやはり、ドゥテルテ大統領にこびり付いた拭いがたい嫌米感情である。

 ドゥテルテ大統領はそもそも、筋金入りのナショナリストであり、かつての米国による「上から目線」の統治に強い嫌悪感を抱いている。社会主義者を標榜する左翼思想の持ち主でもあり、フィリピン共産党の創設者で大学時代の恩師だったホセ・シソン氏の影響を受けたことは、つとに知られている。そのうえに、学生時代にガールフレンドがいる米国へ渡航しようとしたものの、米政府に査証(ビザ)の発給を拒否されたことなど、米国に対する憤りを募らせるに至ったいくつかの原体験があることも、周知の通りだ。

中国の覇権拡大阻止に米国は役に立たない

 しかしドゥテルテ大統領周辺によると、宥和政策による中国へのピボットの決定的な要因は、南シナ海で中国とフィリピンの武力衝突が起こったとして、米国は支援しないだろう――という見立てにある。

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