同じく日本のODAで完備した福建省の鉄道網は、台湾への攻撃態勢をとる部隊の頻繁な移動に使われた。福建省には人民解放軍の各種ミサイルや水陸両用の大部隊が集結している。その移動や訓練用の鉄道の建設に、日本政府はせっせとODAを注ぎ込んでいたというわけだ。

 その時期に私が台湾の李登輝総統にインタビューしたとき、彼はそれまで穏やかだった表情を引き締めて、こう訴えたものだった。「日本の対中援助は理解できます。しかし福建省の鉄道建設への援助だけは止めてほしかった。中国の台湾攻撃能力を直接高めることになるからです」

 このように日本のODAが中国の軍拡を支えたことは紛れもない事実である。その中国がいまや軍事力をさらに強化して、東シナ海の覇権や尖閣諸島の奪取を狙おうとしている。だから、どうしても冒頭のレーニンの言葉を思い浮かべてしまうのである。

「超法規的措置」だった対中ODA

 またODA大綱は、ODAが相手国の「民主化の促進」「人権や自由の保障」に合致することを規定していた。民主主義や人権や自由を否定する国には本来、ODAを提供してはならないはずだった。だが対中ODAはその規定に明らかに違反している。中国の共産党独裁政権の非民主的体質は、現在のウイグル人弾圧をみるだけでも明白である。他の実例は数えきれない。

 こうみてくると、対中ODAとは日本政府が自ら決めた対外援助政策を無視した超法規的措置だったといえる。日本政府は中国を特別に優遇したというわけだ。

 日本は中国の国家開発5カ年計画に合わせ、5年一括、中国側が求めるプロジェクトに巨大な金額を与えてきた。中国にとっては自国を強く豊かにするための有益な資金だった。だが、日本にもたらしたプラスがあるとは思えない。

 その中国が今や国際規範に背を向けて覇権を広げ、日本の領土をも脅かす異形の強大国家となった。日本の対中ODAはそんな覇権志向強国の出現に寄与したのである。こんな外交政策は不毛であるどころか明白な失敗だとみなさざるを得ない。