(文:麻木 久仁子)
タレントの仕事はといえば、その日その日で「現場」へ向かい、その日限りの仕事をこなすのが日常です。わっと集合して、どっと収録して、さっと帰る。日々多くの人に出会いますが、プライベートでも付き合うような間柄の人は(まあ人にもよるでしょうが)あまり多くはありません。というか私はそうです。テンション高く、ひとときの「祭り」を演じ、終われば次へ行くのです。
若林さんはたびたびバラエティ番組でお目にかかりますが、心地よく「ツッコんで」くれるのでとてもありがたい存在です。気付いたら出演者の中でも最年長、なんてときは、みんな遠慮するのかあまり触れてもらえないこともあります。そんなとき、スタジオに若林さんがいるとちょっとホッとします。ですが、仕事以外の話をしたことはありませんでした。
こんな素敵な文章を書く人だったのか
ある日、ツイッターを見ていたら平野啓一郎さんの最新小説『ある男』を若林さんが読んで書いたエッセイが回ってきました。何気なく開いて読んでみたら・・・本当に驚きました。繊細で衒いのない美しい文章でした。例えばこんな感じです。
“「他者を愛している」と自分が宣言するとき、その他者の“どこ”を愛しているのだろうか。その“どこ”に対する答えを「ある男」を読み終わった後、暗がりに手を伸ばしてかき回すように、ぼくはずっと探っていた。”