ものづくりで経済を支えてきた
日本型経営のAI時代における課題
前田:製薬企業を含め、これまで日本経済を支えてきたビジネスは、AIが社会実装される時代にどのような変化が求められるとお考えですか。
上田:ヘルスケアの経験は浅いという前提でお話しますが、ものづくりとして見たときには、海外とマーケットの動きが全然違うわけですよね。日本のものづくりでは、「この精度を達成したら確実に市場をカバーできる」という担保があり、その目標達成のための規律や規制を遵守し、一斉に秩序正しく邁進してきました。
しかし、それをAIというサービス業でやろうとすると、データの規制など様々な障壁がありすぎて前進できません。かつ、利益が確実に見込めるものだけ厳選して市場に出すという方針があると、なかなか幹部の決裁も得られないでしょう。しかし、今のAIは常にお客様の変化にスピーディに対応していかなければならないわけです。それは連続性だけではなく、やはり「考える」ことが大事です。
今世の中を見ていると、これまで不可能と思われた様々なことが出来るようになってきていて、そのための技術も丹念に調べれば作らなくても既存技術でカバー可能です。それを実現しているのが今のベンチャー的アプローチかもしれませんし、それを実践できる時代の今を捉えている若い経営者が、実際にビジネスでも活躍しています。そういう意味では高度な専門教育だけでなく、総合的な「知恵」の教育も大事だなと思います。
前田:AI時代における日本のアドバンテージとしては、どのようなことがありますでしょうか。
上田:一つ嬉しいことに、著作権法において日本は世界で初めて、国内外のいかなるデータであろうがデータ分析に使う場合は一切著作権がないとする改正著作権法が今年5月18日に成立しました。この環境を活かせば、日本は「機械学習パラダイス」になるわけです。海外の方でも日本に支社を持つことでデータを自由に使ったビジネスができるようになるわけですから、どんどんベンチャーも増えるでしょう。このような好機にあって、日本企業が立ち遅れると、恩恵を海外にだけ取られるようなことになってしまいます。ビジネスに対する考え方を変えなければいけないと思いますし、外国籍も入れてオールジャパンで積極果敢に行動開始することが必要だと思います。
IQVIA COREを駆使して、日本のライフイノベーションに資する価値創造を
前田:本日は大変示唆深いお話を聞かせていただきありがとうございました。今般、人工知能をはじめとするテクノロジーによる変革は、明るい展望から不安や脅威に至るまで様々な話題をもたらしています。情報化や機械化は、時として人間と対極に位置づけられることがありますが、そうではなく、人間中心の思想をベースとして、自分の目指す姿や目的を見据えつつ、テクノロジーの強みをさらにレバレッジさせていくことがますます重要になると感じました。
また、これからの新たな価値創出には革新性や高度化の側面だけでなく、既存のものの絶妙な「組み合わせ」でも十分オポチュニティがあるという点で、これは技術に限らず、産業間や産官学で今後連携していく意義を再認識しました。
私たちは、データ・テクノロジー・コンサルティングが事業の中核だったIMSと、臨床開発と営業リソース支援が事業の中核だったクインタイルズが統合して昨年IQVIAとなりました。この2社の組み合わせにより、「組織としての網羅的な知識」、「高度な分析」、「比類なきデータ」、「先端のテクノロジー」という4つの強みで構成されるIQVIA COREを原動力に事業を推進しています。本日のお話を伺いながら、私たちはこのIQVIA COREを駆使して、日本のヘルスケア発展に資するよう価値創出に尽力したいと思いました。
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プロフィール
上田 修功 氏
国立研究開発法人 理化学研究所
革新知能統合研究センター 副センター長
1982年 | 大阪大学 工学部通信工学科卒業 |
---|---|
1984年 | 同大学院 通信工学専攻修士課程修了 |
1984年 | 日本電信電話公社(現NTT)入社 |
1991年 | NTTコミュニケーション科学研究所 主任研究員 |
1992年 | 博士(工学) |
1993年 -1994年 |
米国Purdue大学客員研究員 |
2003年 | NTTコミュニケーション科学基礎研究所 知能情報研究部長 |
2010年 -2013年3月 |
同研究所 所長 |
2013年4月 -2018年現在 |
同研究所 特別研究室長(NTTフェロー) 機械学習・データ科学センタ代表 理化学研究所 革新知能統合研究センター 副センター長 iPS細胞連携医療リスク回避チームリーダ 防災科学チームリーダ 神戸大学大学院システム情報学研究科 情報科学専攻 知能統合講座 客員教授 京都大学大学院情報学研究科連携教授 電子情報通信学会、情報処理学会、IEEE各会員 |
※2018年4月17日 文部科学大臣表彰 科学技術賞研究部門受賞
前田 琢磨 氏
IQVIAソリューションズ ジャパン株式会社
取締役 バイスプレジデント
テクノロジーソリューションズ担当
1992年 | 慶應義塾大学理工学部物理学科卒業。同年横河電機入社、 エンジニアとしてサウジアラビア、シンガポール、 中国などの石油石化プラントの立ち上げに携わる |
---|---|
1998年 | カーネギーメロン大学産業経営大学院(MBA)修了 |
1998年 | アーサー・ディ・リトル・ジャパン株式会社で 経営戦略、技術戦略、知財戦略に関する トップ・マネジメント・コンサルティング・サービスを提供 |
2012年 | アイ・エム・エス・ジャパン株式会社入社後、 IMS Consulting Group事業部の日本の統括を経て、 2016年より取締役 テクノロジーソリューションズ担当 グロービス経営大学院教授兼パートナファカルティ、日本医療情報学会会員、 ITヘルスケア学会会員 著書に『葡萄酒の戦略』(東洋経済新報社)、 訳書にクリス・フロイド著『経営と技術』(英治出版)、 共著に『グロービスMBAマネジメント・ブックII』(ダイヤモンド社)がある |
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