ビッグデータ、IoTと共に、近年の人工知能(AI)に対する期待や関心は留まることなく爆発的に上昇し続けている。これまで本シリーズでは、医療ビッグデータの一つ、RWD(リアルワールド・データ)の価値や社会的恩恵を取り上げてきた。そのデータとテクノロジーが共創していく情報化の革命は、ヘルスケアを含む社会全体を変容させようとしている。

 そこで、シリーズ第七回目には、理化学研究所 革新知能統合研究センター(AIP) 副センター長の上田修功氏をお迎えし、データと両輪を成すライフイノベーションのツールであるAIについて、開発の方法論や展望、そして日本モデルとしての医療分野への取り組みなど最先端のお話を伺った。モデレーターは、IQVIAジャパングループ テクノロジーソリューションズを統括する取締役バイスプレジデントの前田琢磨である。

AI研究開発の現状、そして日本の課題とは

前田:AI研究開発において、世界で日本がどのような位置にあるのか、現状や課題についてお考えをお聞かせください。

上田 修功氏
国立研究開発法人 理化学研究所
革新知能統合研究センター
副センター長

上田:よく「日本は周回遅れ」と言われますが、何をもって遅れているかが明確ではないですね。AIは、モノづくりのように指標一つでその優劣はつけられず、いつどの瞬間に何が出てくるかわからない、いわばサービスの領域です。

 囲碁の名人に勝った、流通を変えたなど、今世界で話題になっているAIのシステムは、実は驚くほどの革新的技術というより、従来の技術を絶妙に組み合わせ、データを駆使して今までなかった価値を生み出すことに成功しており、これが一般的にAIと呼ばれていまして、一概に技術の勝ち負けとは言えないですね。

 ただ、AIの分野に限らず、研究者人口の減少は日本の課題の一つです。今のAIは機械学習、特に、深層学習の技術が支えていますが、これらの研究者も欧米や中国に比べて母集団が少なく、国際会議等の論文発表でも、残念ながら日本のシェアは数%です。また、欧米や中国は目標が明確で、一旦決めたら一気にそこへ巨額の投資をする。例えば今中国はAAAIという人工知能の学会で、論文投稿数はアメリカを抜いてトップです。研究予算も日本は中国の2割程度です。

前田:こうみると、たしかに日本は決して有利とはいえない状況ですね。

上田:それでも、日本には強みとするサイエンスの領域があります。AIPでも、日本が強い領域をさらに強くするために再生医療、ものづくり等に加えて、防災・減災、高齢社会やインフラといった社会課題の解決にAI研究のリソースを投入しています。サイエンスは「質」が重要ですから、日本はこうした強みとする領域を絞ってソリューションを開発していけば、十分戦えると思っています。