日本の健康・医療戦略は、世界最高水準の医療提供と共に、ビジネス創出やイノベーションによる産業競争力や経済成長も期待される。他国より周回遅れと言われた日本は、近年医療系データベースの整備を急速に進めてきた。2018年からは国主導でリアルワールド・データ(RWD)を活用した臨床開発ガイドライン策定が始まるなど、新薬の承認申請にもRWDの活用が推進されている。

 臨床開発へのRWD活用がなぜ注目されるのか。これからの臨床開発はどう変化していくのか。また、世界の先進事例としてはどのような取り組みが成されているのか。生物統計学の第一人者であり、米国食品医薬品局(FDA)で数理統計学者として活躍後、日本でも難病の臨床統計などで先駆的な取り組みを行っている北里大学薬学部臨床医学(臨床統計学)教授、竹内正弘氏にお話をうかがった。モデレーターを務めるのは、クインタイルズIMS日本法人でCRO※事業を統括する品川 丈太郎氏である。

※CRO(Contract Research Organization):製薬会社やアカデミアが医薬品開発のために行う治験業務を受託・代行するサービス。
*1治験は「薬機法」と「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」を遵守して実施されなければならない。*2CROは、臨床試験を滞りなく進行するために、関連法規や計画書に則って正しく行われていることを保証するためのモニタリングから、集積されたデータの処理・解析、行政当局に提出する申請書類の作成に至るまで、幅広い業務を担う。また、製造販売後調査の支援に加え、基礎研究・非臨床試験においても市場調査や関連する試験などを行い、医薬品開発をサポートする。
*1厚生労働省HP  http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/fukyu2.html
*2一般社団法人 日本CRO協会HP  http://www.jcroa.or.jp/customers/service.html

臨床(新薬)開発におけるビッグデータ活用の意義、
KCCRの取り組み

(以下、敬称略)
品川 クインタイルズIMSではNext Generation of Clinical Development(次世代型臨床開発)のCROとして、実臨床下で得られるビッグデータ、RWDの活用は、臨床開発の分野でも有効と考えています。ビッグデータ時代における今後の臨床開発について、竹内先生はどのようにお考えでしょうか。まず、臨床開発におけるビッグデータ活用の意義についてうかがえますか?

竹内 正弘 氏
北里大学薬学部臨床医学(臨床統計学)教授
かながわクリニカルリサーチ戦略研究センター長  

竹内 急速に科学が進み、ゲノム情報やサロゲートマーカーなどが出てくる一方で医療費が高騰し続けるなか、患者さんは確実に効く薬だけを選択する、選択したいという状況になってきています。そうした中で薬の臨床開発も、より効率的に「効く患者さんに早く届ける」という方向性になってきています。RWDをはじめとするビッグデータの活用は、不確実性の要素を極力減らし、精度と効率を高めていく上でも非常に重要になってくるわけです。

京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区の一つとして、川崎市殿町にライフイノベーションセンター(LIC)という再生・細胞医療の産業化拠点があります。そこに僕がセンター長をしているかながわクリニカルリサーチ戦略研究センター(KCCR)が設置されており、最新かつグローバルな臨床研究を軸に、研究推進、開発支援、人材育成の産官学のハブとなる活動をしています。

 KCCRでは、東日本大震災時復興のために設置された東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と提携を結び、ゲノム情報も含まれるバイオバンクのデータを活用させていただいています。これらのデータを活用し、難病や再生医療の臨床研究をまず行いたいと考えています。

 この分野は、日本が世界で一番申請から承認までの期間が短いうえ、仮承認で保険適用になるということで、世界中が注目しています。特に難病の場合においては、プラセボを使った実薬投与群との比較試験を行うことは、患者さんに対する倫理的な問題が出てきますので、こういうところへビッグデータを使った研究ができるのではないかなど、いろいろな方法を検討しています。