医薬品の開発や営業支援など、製薬企業に総合的なサービスを提供する世界最大級の企業として、日本国内でもCRO・CSO※をリードするクインタイルズ。そして、世界100ヵ国以上のヘルスケア業界に最先端の情報・テクノロジー・サービスを提供するIMS Health(以下、IMS)。この2社によるグローバルでの合併がヘルスケア業界で大きな注目を集めている。
世界に先駆けて超高齢化を迎えた日本では、新たなサステナブル社会の仕組み作りとともに、高度化していく医療と限られた税収のバランスのなかでヘルスケアのさらなる最適化が求められており、その拠り所となるエビデンスの重要性がますます高まっている。2社の合併によって生まれた「クインタイルズIMS」、そして日本における事業統合は、そうしたヘルスケアの未来にどのようなインパクトをもたらすのか。同社日本ビジネスユニットのプレジデントである湊 方彦(みなと のりひこ)氏と、クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンの臨床開発事業本部長、品川 丈太郎(しながわ じょうたろう)氏に話を聞いた。
※CRO(Contract Research Organization):製薬会社が医薬品開発のために行う治験業務を受託・代行するサービス。CSO(Contract Sales Organization):製薬会社等との契約により医薬品のマーケティング・販売活動に関わる一連のサービスやソリューションを提供。
既存の枠組みを超え、「次世代CRO」へと進化
(以下敬称略)
――クインタイルズは、CROの国内モニタリング市場でトップ規模の受託実績を持っていますが、IMSとの合併によって、CROをさらにどのように進化させていく考えでしょうか。
品川 我々クインタイルズは、治験の最適化におけるプロフェッショナルです。臨床試験のすべてのプロセス、すなわち施設の選定、ドクターの選定、プロトコルの作成、そして実際のオペレーション、さらにはデータマネジメント、生物統計、報告書作成、当局との交渉など、従来は製薬企業の中にあった工場以外の機能を殆どすべて持っていると言えます。そうした臨床試験のプロセスのうち、最初のステップが施設とドクターの選定です。そこにおいては、我々はすでに相当な量のデータベースを持っています。それでもなお、臨床試験というのは不確実要素があり、いざ始まってみると「この病院には臨床試験対象の患者様がいなかった」ということや、「この先生、開業して、その病院にはすでに不在だった」など、いろいろなことが起こり得るわけです。たとえばそこに量や質で圧倒的なIMSの持つ様々なアセットを活用することによって、より効果的で効率的なオペレーションが可能になるとともに、不確実要素が出たときの対応も早くなるわけです。
それから、RWI(リアルワールド・インサイト)もキーワードの1つになります。我々クインタイルズは、今までは顧客が作成するプロトコルに基づき、そこからプロスペクティブなデータを作るプロでした。そこに、IMSのRWD(リアルワールド・データ)をはじめとする医療ビッグデータおよびエビデンスから導き出されるインサイト、つまりRWIを活かすことで、これからは「新製品が出たらこの市場をこうやって攻略していく」というコマーシャライゼーションを見据えた提案が可能になると思っています。
さらにさかのぼると、臨床試験を受託する時点で「この化合物はここを見据えて、こういう臨床試験を実施しませんか」といった臨床試験の開発戦略コンサルテーションもでき、これが大きな強みの1つになります。RWIと、コマーシャライゼーションのコンサルテーションと、臨床試験の開発戦略のコンサルテーションが一貫して繋がると、例えば有望な化合物が出てきた際には「こういう試験をやり、こういうエビデンスをもって、こうやってこの市場にアプローチをしよう」というところが10年先まで見通せるようになるはずです。
QuintilesIMS, Japan プレジデント
アイ・エム・エス・ジャパン株式会社
取締役会長
湊 RWIの領域では、合併前の1年間にグローバルでアライアンスに関する合意をしています。 両社の足りないところを補い合う試みを行ってきた結果 、想定以上に良いシナジーが生まれることが明確になりましたし、またそこをお客様からも求められていたということもわかりました。そして両社の協業をさらに拡大・加速してお客様に新たな付加価値をお届けするには、一緒になることがベストな方法であろうということになったわけです。
ちなみに、合併発表後の会合にクインタイルズの創業者デニス・ギリングスが参加した時もありました。その時彼が「自分はこの合併にすごく興奮している。これは医療を変える出来事で、創業以来夢に見ていたこと」と熱く語り、その医療の最適化へ実現しようとする強い理念と考えに、その場にいた皆が感動し、かたく握手しあいました。
クインタイルズ・トランスナショナル・ジャパン株式会社
臨床開発事業本部長
臨床開発の最適化は、“For the Patient”のあくなき実践
――臨床開発の最適化について、今後進めていく方策、進行具合などについて聞かせください。
品川 我々がこれから推進するRWIなどに基づく次世代CROは、患者様が必要とする医薬品・医療機器の上市スピードを短縮することで、より早く患者様の治療のお役に立てられるよう支援していくことができます。そのための臨床開発の最適化については、スピードとコストとクオリティ、という3原則の追求。これは変わらないと思います。
「より早く」ということでは、我々はすでに海外に広がるネットワークで臨床試験のプラットフォームをいくつも持っており、これが、臨床開発の最適化をすすめるアドバンテージとなっています。さらに人材のクオリティを上げていくことによって、もっともっとブラッシュアップできると考えます。
「より安く」というのは、今回の統合の時点で具体的な取り組みをお示しするのは、なかなか難しいところではありますが、現在業界全体でいろいろなモニタリングの方法論について議論をしているところです。例えばRBM(リスクベースモニタリング)をやることによって施設訪問回数を減らそうとか、リモートモニタリングと言って、施設の電子カルテとセキュリティを伴った個室をつないで電子カルテを覗けるようにするようなことも始まっています。方法論として完全なる正解を導き出すのは難しいかもしれませんが、クインタイルズIMSとしては、今後も続く技術革新に合わせて、ITプラットフォームの開発をはじめ、ブラッシュアップをこれからも続けていきます。さらに、臨床試験における新たなモバイルツールの開発なども進んでくると思います。モニタリングにおいては、CRA(以下、モニター)※にとって利便性の高いツールの開発も行いました。
「高品質」はあえて言うまでもありませんが、臨床試験は、どんなに予防策を講じたとしてもヒューマン・エラーが発生してしまうことがあります。現在弊社のモニターは1000人を超えていますが、そこで我々が取り組んでいるのはラインマネジメントの強化です。従来、1人のラインマネジャーの担当モニター数が多く、どうしてもそこに大きな負荷が生じてしまうことが課題としてありました。そこで、実情を精査し、ラインマネジャー1人当たりの担当モニターの数を減らした結果、これまで以上に細やかに1人1人のモニターに目が行き届いて、きちんと向き合うことができるようになりました。さらに、キャリアプランもしっかりと相談に乗ることが可能となり、結果的に1000人のモニター1人1人のクオリティを高めることができつつあります。
※CRA(Clinical Research Associate):治験の中核をなす職種で、臨床開発モニターとも呼ばれる
――臨床試験の最適化を進める中で、例えばIMSが取り扱うデータや、IT領域の人材において相乗効果を出せることはありますか。
湊 IMSは膨大なデータと長年にわたって開発したデータ分析のノウハウを、ITを使ってより有効に活用できる形に転換、変換を進め、インフラや、プラットフォームの統合、新しいアプリケーションの開発など、すぐにシナジー効果を生み出せる取り組みがすでに始まっています。この取り組みで実現されるものを世界中で何万人ものモニターの人たちが活用することにより、全体の効率が格段に上がる可能性もあります。
我々は、ITの領域についてはAIを含め、これからも様々な取り組みを推進していきます。その上では「クインタイルズIMS」だからこそという、我々の独自性を常に追求しますし、そこでは比類ない会社として尖った存在でいたいと考えています。
合併により新たな領域を開拓し、成長を実現
――両社の合併によって臨床開発事業にもたらされるメリットについて話を聞かせてください 。
品川 我々は、ラインマネジャー、プロジェクトマネジャーに加え薬事やデータマネジメント、臨床試験関連のキャリアプランについてはこの業界で最も豊富に持っています。そこに、先ほどお話ししたように製品戦略やコマーシャライゼーションのコンサルテーションなど、従来、製薬企業のポートフォリオを見るような所にしかなかった機能も持ち合わせるようになりました。そういう意味で、顧客にとって幅広く新たな付加価値を創出していく我々の事業活動の中で、モニターたちのキャリアプランもかなり広がり、多くの機会や挑戦の場が増えることで非常に面白いものとなるはずです。モニターたちのモチベーションという意味でも非常に強いメリットになりますし、そのことがひいては優秀な人材に中長期的に当社で活躍していただけるようになるということにもつながると思っています。
またもう1つは、すでに目に見える具体的な形となっていますが、今回の統合によって 、社内のメディカルドクターを臨床試験だけでなく、コンサルテーションのコンセプトチェックに短時間で活用できるようになったことです。社内にメディカルドクターがいることは当社の臨床開発事業部の大きな強みで各領域の専門医が所属しています。プロジェクトを進めるうえで、社員が何か医学的な疑問があればすぐに答えられる体制を整えてきました。コンサルテーションの際にも、クイックに医師としての意見を聞きたいケースもあるわけですが、外部の医師に依頼するということで今までは相応のプロセスや時間を要することになっていたようです。ですが、社内に医師がいれば「この件、どう思いますか?」というように、通常の社員同士のミーティングのように30分で済んでしまうかもしれません。こういう点でもお互いの長所を持ち寄り、いろいろな相乗効果が生まれています。
湊 その通りです。アポイントを取り、話をうかがいに行っていたところを社内で出来る。結果的に仮説検証のサイクルが格段に早くなり、いろいろな面での効率化や合理化が図られることになります。
――最後に、新たな成長に向かう今後への想いについてお聞かせください。
品川 我々は治験の最適化のプロで、IMSはデータの利活用による治療の最適化のプロで、この2つの組み合わせで生まれるのは、「医療の最適化」のプロです。治験の対象としての1つの化合物にとらわれることなく、本当に患者様のベネフィットを見据えて医療の最適化を語ることができる唯一無二の一陣になれるのではないかと思っています。
湊 CRO業界には他にもたくさん会社がありますが、他とは全く異なる次世代のCRO、つまり「Next Generation CRO」を実現しなければいけないと思います。最終的には、例えば臨床試験なら他で実施するよりも圧倒的に早いし、同じような価格でも品質が良く、大切な薬が予定通り上市できる。さらには、少し早い段階でクインタイルズIMSに相談することにより、理想的なターゲティングを共に考えそこからその薬を最も必要とする患者様のところへ最短で届けることができるようになる---これこそ私たちが今考えている、私たち自身にとっての大きな喜びであり夢でもありますし、この業界でこの仕事に携わり一緒に働く仲間とも分かち合うことができるものだと思います。これはモニターをはじめとするクインタイルズIMSに居る一人一人の力によって叶えられるものであり、この喜びを感じるより多くの仲間にも参加していただき、今回の統合を機として、私たちが目指す世界の実現に向けて更に加速していくことができればと考えています。
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プロフィール
アイ・エム・エス・ジャパン株式会社 取締役会長
1985年東京大学大学院工学系研究科修士修了、同年日本IBM入社、ネットワークサービスの企画・開発に携わる
99年AT&Tジャパン(旧AT&Tグローバル・サービス)入社、常務、副社長を経て、02年1月社長
2009年3月IMS入社
10年1月社長就任
15年6月取締役会長およびIMS Health パシフィック・アジア プレジデント就任
16年10月QuintilesIMS, Japan プレジデント就任
1960年兵庫県出身
1990年慶応義塾大学医学部卒業、同年精神神経科医局入局
95年より現在に至るまで休日は川崎市内の病院で非常勤医師として勤務
96年ノバルティス(旧チバガイギー社)臨床開発部入社
98年グラクソ・スミスクライン(旧日本グラクソ)入社、安全性管理業務に携わる
2001年アストラゼネカ入社、臨床開発部所属
05年ヤンセンファーマ入社、マーケティング部所属
10年6月クインタイルズ、バイスプレジデント, Medicalとして入社
11年1月臨床開発事業本部長就任
15年10月シニアバイスプレジデント就任
1965年神奈川県出身
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