本当に読むに値する「おすすめ本」を紹介する書評サイト「HONZ」から選りすぐりの記事をお届けします。

(文:刀根 明日香)

 被差別部落や赤線という言葉が、ノンフィクションというジャンルを読み始めて、目に止まるようになってきた。ノンフィクションを読まなかったら、例えば新聞や雑誌でそれらの言葉を目にしたとしても、特別興味をもって立ち止まるようなことはなかったかもしれない。ただ、読む本のジャンルが広がると同時に、それらの言葉が自分が生きる上でとても重要な意味を持つのではないかと思うようになってきた。興味があるというよりは、見逃してはいけない「何か」として、心に引っかかるようになった。

 よく同年代の友達と話していると「どんな本を読むのか」という話になるが、学生時代に読んだ鹿島茂の『馬車を買いたい!』や『パリ、娼婦の町 シャンゼリゼ』や、井上理津子の『さいごの色街 飛田』などの影響を受け、貧困や差別、むき出しの性の話から目が離せなくなった。ルポタージュを読むことは、生活のなかで見逃してはいけない「何か」を察知する訓練になるのではないか。「○◯を知らぬ若い世代が増えるなか」という文句を街や書店で見る度に私はとても不安になるが、時代と共にこの世から消え去ってしまう「何か」を自分のなかに残そうとして、焦りながらもそれらの本を手にとってしまう。

全国の「路地」を旅したルポタージュ

 本書は、著者の上原善広が北は北海道から、南は沖縄まで、全国の「路地」を旅したルポタージュをまとめたものである。昔の事件、事故、怪談話、非合法な商売、町からなくなってしまった馴染みのお店など、全部で15章だ。「何か」を頭の片隅に仕舞い込むように、丁寧に読んでいった。