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(文:上昌広)

 前回(「製薬企業から謝礼金270億円をもらう10万人の医師」)、製薬企業から内科教授を中心とした医師に、講師謝金の名目で巨額の金銭が流れていることを紹介した。今回は製薬企業サイドの分析だ。どんな製薬企業が、どのような目的で医師にカネを払っているのだろうか。

 今回ご紹介するデータも、NPO法人「医療ガバナンス研究所」と調査報道メディア『ワセダクロニクル』による共同調査の結果である。

 結論から言うと、医師にカネを払うのは、海外で売れる商品が少ない製薬企業だ。彼らは生き残りのためには手段を選ばない。

縮小する国内市場で生き残るには

 少子高齢化により社会保障費負担が増大するわが国では、薬価の切り下げが続いている。今春の診療報酬改訂でも薬価は1.65%引き下げられている。2017年の医薬品市場は10兆5149億円で、前年度から1%の減少だった。わが国は、医薬品市場が縮小している唯一の先進国だ。

 製薬企業が生き残るためには、市場規模が大きい米国、あるいは急成長中の中国に進出しなければならない。製薬企業の生き残りは、海外で売れる薬の確保にかかっていると言っても過言ではない。そのためには巨額の借金も辞さない。

 代表例が武田薬品工業だ。2017年度、武田薬品の売り上げは米国34%、日本33%、新興国16%、欧州プラスカナダが18%だったが、アイルランドの製薬企業シャイアーを買収したため、統合後は米国での売上が48%、日本が19%、日米以外が33%になると予想されている。

 武田薬品のように、自社開発するにせよ、他社を買収するにせよ、海外で売れる医薬品がなければ、縮小する国内市場のパイを奪い合うしかない。そのためには医師にカネを渡すことも厭わないというわけだ。

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