このように地球温暖化には科学的な不確実性が大きいので、経済的なリスク評価で考えるしかない。つまり温暖化による災害のコスト(期待値)より防災対策のコストが低いかどうかという問題だが、これは非常にリスクの大きな「賭け」である。どうすれば被害を最小化できるのだろうか。
最善の防災対策は危険地帯に住まないこと
地球温暖化対策よりはるかに安上がりで、効果の確実な方法がある。危険地帯に住まないことだ。
下の図は、今回の水害で大きな被害の出た岡山県倉敷市真備町の浸水推定図である(国土地理院)。その範囲は、倉敷市のつくったハザードマップで「想定浸水域」とされた地域とほぼ一致している。
今回の被害は予見可能だった。小田川流域で「100年に一度程度」とされる雨が降った場合、地域の大半が「2階の軒下以上まで浸水する」と想定され、マップは公開されていた。結果論としては、今回の水害の被害者は、100年に一度のリスクを承知で住んでいたということになる。
最初にみたように、ここ100年で日本で大雨はやや増えたが、水害の被害は減った。伊勢湾台風のような死者数千人規模の水害は起こらない。それは異常気象が減ったからではなく、堤防やダムなどのインフラが整備されたからだ。
これは地球全体でも同じだ。異常気象が大幅に増えたわけではないが、発展途上国では水害が増えている。それは都市に人口が集中する一方、堤防などのインフラ整備が追いつかないからだ。つまり水害を減らす上でもっとも効果的なのは、地球温暖化を止めることではなく、防災対策を取ることなのだ。
だが日本では、インフラ整備はほぼ終わった。これから堤防を建設するコストは高く、ダムを建設することは不可能に近い。人口減少時代に、全国をすべて安全地帯にすることはできない。
今後はインフラの維持・管理に大きな費用がかかるので、防災設備に大きなコストをかけるべきではない。今は災害のリスクを取って危険地帯に住むことも自由だが、災害対策のコストは国民負担になる。
コスト最低の方法は、災害リスクの大きい地域の居住を制限することだ。都市計画を改正して、危険地帯を「市街化調整区域」に編入することも考えられる。そこに住む人は、自己責任で住むしかない。