習近平が本当に欲しいものとは
では、こんな「コモンカード」ばっかりプレゼントされた中国側は大激怒ではないのか? 疑問も湧くが、国営通信社新華社によると、外交部のスポークスマンは「このたび細川護煕氏が大量の貴重な漢籍を寄贈してくれた義挙を高度に賛賞」しているのだそうである。中国側がここまで大喜びしている理由は、『新浪文化』の記事を見るとわかる。
“(今回寄贈の漢籍は)学術的価値が高く、特に高いのは『群書治要』全五十巻であり、この書物は中国古代の政治文献の撰集で、唐代末期にすでに散逸して中国国内では数千年間にわたり失われていたものだが、幸いにして遣唐使が日本に持ち帰っていたことで現在まで伝わっており、前世代のプロレタリアート革命家習仲勲同志が『群書治要』の整理・出版事業を非常に重視し、かつて『群書治要考訳』に「古鏡今鑑」と題字を揮毫したものであり……”
他の中国側関連報道を見ても『群書治要』がまっさきに挙げられている。中国側として、なにより嬉しいのはこの書物だったようだ。
『群書治要』は、67種類の中国古典から国家統治に役立つ部分を抜き出して編集された、名言アンソロジーみたいな書物(類書)である。中国本土では散失したいっぽうで、遣唐使が持ち帰った同書は日本国内の金沢文庫に鎌倉期の書写が伝わっており、江戸時代に入って元和年間・天明年間・弘化年間にそれぞれ刊行された。書物それ自体としては、少なくとも日本国内では極端に貴重なものだとは言えない。
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今回、永青文庫から寄贈されたのは、天明七年(1787年)に尾張藩で刊行されたヴァージョンだ(この版本は京大や一橋大など多数の機関が所蔵しており、そのひとつを中国に寄贈しても一切問題はない)。ちなみに、『群書治要』は中国でひとたび失われたとはいえ、18世紀末〜19世紀はじめごろに元和版か天明版の版本が里帰りして、清朝の嘉慶帝に献上されたこともある。