筆者は学生時代に東洋史(中国史)を専攻していたが、近現代史かつ文化人類学寄りの専門だったこともあって、それほど漢籍に明るいわけではない。しかし、現代中国事情を追いかけているライターとして、永青文庫の漢籍寄贈については、上記の両者の意見とは異なる独自の見解がある。

 先に結論を書いておけば、永青文庫の今回の寄贈漢籍の大部分は、純粋に文化財としての視点から見れば、それほど価値が高くないものが多い(「二束三文」とまでは言いすぎだと思うが)。なので、国外に寄贈したところで文化財の流出でもなんでもない。

 ただし、寄贈書物の一部には特殊な理由から、中国の習近平政権にとって非常に重要な書物が含まれている。今回の寄贈はむしろ積極的に評価するべき出来事だと考えている。

大量に寄贈された漢籍

 まず、ここで寄贈された漢籍はいかなるものか。以下に日本語で読める報道を紹介しておこう。

 “永青文庫から寄贈された36部4175冊の漢籍は、中国語版25部、日本語版11部で、文献の保存状態は非常に良く、欠けた部分がほとんどなく、種類もすべてそろっており、中国古代の重要な書物だ。特に唐代の功臣として知られる魏徵(Wei Zheng)らが編さんした『群書治要五十巻』は中国古代政治文献撰集で、唐代末期から千年もの間、中国大陸から消失していたが、遣唐使が日本へ持ち帰ったものが現代まで伝えられた”
(AFP)