マット安川 八面六臂の執筆活動で大人気の佐藤優さん。今回は検察の問題から政界、外交、経済まで、さまざまなお話をいただきました。なかでも「円高を利用して海外の資源買収に乗り出すべき」というアイデアは、まさにコロンブスの卵でした。

検察叩きのいき過ぎは危険。社会正義のために検察は必要

「マット安川のずばり勝負」ゲスト:佐藤優/前田せいめい撮影佐藤 優(さとう・まさる)氏(右)
元外交官、文筆家 インテリジェンスの専門家として知られる。第38回大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した『自壊する帝国』の他、著書・訳書多数。近著に『この国を動かす者へ』。
(撮影:前田せいめい、以下同)

佐藤 私は過度の検察叩きは危ないと思っています。検察は社会の正義を実現するために大切で、必要な組織です。

 例えば、厚生労働省の村木厚子(元局長)さんが無罪になりました。彼女は自分は被害者だと言って、いま国家賠償請求の訴訟を起こしています。

 確かに村木さんが冤罪だったのは間違いない。けれども、その部下(上村勉元係長)が偽造文書を発行したのは事実です。その管理責任は上司にあります。その意識がどの程度あるのか。

 彼女は国家賠償を要求する権利はありますが、権利は放棄できるんです。自分の部下に対する責任を考えれば、彼女はもっと別の選択があったのではないか。

 私は本当に個人犯罪なのか疑問を感じています。なぜなら、接待を受けず、賄賂ももらわないで、発覚したらクビになるような偽造文書を作るでしょうか。

 常識で考えれば、誰か上から言われているわけでしょう。いずれにしろ、厚生労働官僚が犯罪を犯したのは間違いない。

 それなのに厚生労働省の人たちは花束を持って、「村木さん、よかった」と迎えた。これが官僚の大きな問題なんです。世間の常識から明らかにズレている。

 大阪地検(特捜部)で、大坪(弘道被告、前部長)さんや佐賀(元明被告、元副部長)さんが、これは個人犯罪ではなく組織ぐるみではないかと目をつけたのは本当に間違っていたのか。

 誰がやったのかという点で、人を間違えてしまったのは大失敗です。しかし、だからといって検察が悪いと叩くのは、厚生労働官僚の犯罪を免罪してしまうことになる。