元・空将。1974年、防衛大学校卒業、航空自衛隊入隊、F4戦闘機パイロットなどを経て83年、米国の空軍大学へ留学。90年、第301飛行隊長、92年米スタンフォード大学客員研究員、99年第6航空団司令などを経て、2005年空将、2006年航空支援集団司令官(イラク派遣航空部指揮官)、2009年に航空自衛隊退職。(撮影:前田せいめい、以下同)
マット安川 安保法制の協議が進んでいます。元航空自衛隊空将の織田邦男さんに、集団的自衛権の解説や必要な法改正、今、日本がやるべき安保政策などをお聞きしました。
集団的自衛権は戦争をしないために絶対必要なもの
織田 いま安保法制の与党協議が行われていますが、中身は技術論、あるいは入り口論に終始しています。例えば、風雪に耐えた憲法解釈を変更するのはまかりならんといった入り口論で終わっていて、非常に分かりにくい。
一番欠けているのは、現在の世界の情勢がどういうもので、その情勢において国民の暮らしと命をどう守るかという本質的な議論がないことです。駆けつけ警護がどうのとか、恒久法、憲法解釈、あるいはホルムズ海峡がどうのというのは技術論なんです。その根本のところをしっかり議論してもらいたい。
私は35年間、安全保障に携わったプロとして言えば、集団的自衛権というのは戦争をしないために絶対必要なものです。しかも、防衛関係費をそんなに増やさなくても済む。
いまの防衛費は約5兆円です。社会保障費が100兆円で毎年1兆円ずつ増える中、防衛関係費はそんなに増やせないわけです。その中でどのように国民の暮らしと命を守るのか。
いまの国際社会における最大の関心事は、台頭する中国にどのように対峙するのかということです。我われにとっては隣国です。今回の全人代(全国人民代表大会)でも、今年の国防費は10%を超えている。
中国の国防費は過去27年間ずっと増えており、1989年に比べると40倍になっています。この10年間でも4倍に増えている。しかも、それには研究開発費や宇宙開発は入っていない。そうやってどんどん力をつけ、中国は力の信奉者ですから、東シナ海や南シナ海で挑戦的、挑発的な行動を取ってくるわけです。
それにどう対応するのかという時に、戦争をするわけにはいかない。冷戦時代のように封じ込めによって抑え込むこともできない。ではどうするか。関与政策と言っていますが、中国に国際法や国際規範を守るようにみんなで誘導していこうと、これしかないと私は思うんです。
それには2つ条件があります。1つは、中国に圧倒されてはダメだということです。圧倒されたら言うことを聞かないし、誘導に従わない。もう1つは、中国をまっとうな国にするには20~30年かかりますから、その間に摩擦は必ずあります。その時に戦争にならないようにすることです。ヘッジをしっかりやらなければいけない。