暑いと汗が出る、体を動かすと汗が出るのはごく自然なこと。日々の生活で私たちが汗を意識することはあまりない。
汗には気化熱で体を冷やし、体温の上昇を防ぐという重要な役割があるにもかかわらず、一方で「汗臭い」「汗まみれ」など、汚いものの象徴として見られる傾向にある。最近では、冷房の普及で汗をかく機会自体も減り、汗をかかずに夏を過ごすことも珍しくなくなった。大量に汗をかくのも注意が必要だが、汗をかけないことで体調不良になることもある。
汗による体臭や脳への影響、よい汗のかき方について、汗のスペシャリストである五味クリニック院長、五味常明医師に聞いた。
脳は熱に弱く、思考を低下させる
――汗はなぜ出るのでしょうか?
五味常明氏(以下、敬称略) 人間が活動するためには、エネルギーが必要なのは衆知のとおりです。人体はできるだけ高いエネルギーの栄養源を摂取して、体内の代謝によって活動エネルギーに変換するのですが、代謝されるときにその副産物として熱が産出されます。
けれども、脳は温度の変化に極めて敏感で、とりわけ高温に弱いのです。体内のエネルギー代謝時に産出される熱により、脳の温度が1℃上がるだけでも、脳の活動が阻害されて思考が低下します。暑いときに頭がぼーっとすることは誰もが経験しているでしょう。
そこで機能するのが汗腺です。汗腺から汗を放出させることで、汗が気化熱となり、熱を放出し冷却、体内の温度を一定の状態に保つことができます。体温調節に汗腺機能が備わっているのは、人間やウマなどに限られています。人間は汗腺機能の発達で、身体活動と脳による知的活動の両方を有効に行うことが可能となりました。長い歴史の中で、人類だけが脳を進化させて文明を築いてきたことに、汗が大きく貢献しているといえます。