これについても、「ソルトレイクオリンピックで判定に対する疑惑が明らかになって以降、国同士での採点の裏取引を防止するため、ジャッジの匿名化が行われた。
しかし、仮に不可解な点数を出せば、プロである以上、そのジャッジが責められるのは当然のこと。反対に、現行のように点数の出所を曖昧にしたら、全くジャッジ能力は問われなくなってしまう。
不正回避と言うが、選手よりジャッジを守るためのルール改正だ」と競技者、指導者のプロとしての批判は、的を射ており、しかも重く痛烈だ。
2回も転倒しながら銀メダルに「恥ずかしい」
また、現行のシステムでは、技を認定する専門家がいて、そのジャッジが決めた技の基礎点に対して、他の審判が マイナス3からプラス3までの幅で評価することになっている。
そのことに対しても、「マイナス3に、プラス1・・・。評価がなぜこんなにばらばらに分かれるのか私にも分からない」と苦笑する。
改善されてこうなのだから、こうした欧米主導、人種差別的な運営の中でオリンピックで金メダルを獲得した荒川の凄さは欧米勢には脅威だったに違いない。
米国の主要メディアは、トリノオリンピックでコーエンが2回も転倒したのに、銀メダルとなったことを「shame!(恥ずかしい)」と報道してたことは、その採点の偏重さを物語っている。さもなければ、村主章枝(トリノオリンピック4位入賞)選手がメダルを取っていたかもしれない。
一方、今回の平昌オリンピックでは、羽生結弦選手が66年ぶりに、五輪連覇を成し遂げた。 世界の羽生が今あるのは、荒川のおかげでもある。
2004年に仙台の拠点リンクが経営難で閉鎖されたが、荒川のトリノ金獲得で、フィギュアブームが再燃。同リンクが再開されたからだ。
しかし、今も国内の有数選手が自由に練習できるリンクは、関西大や中京大内のアリーナなど限られており、環境が充実している欧米諸国に比べ、日本にはスケートリンクが極端に少なく、助成金も少ない。
そんな逆境の中、第2、第3の荒川や羽生を育成するには、自治体や企業、国の後方支援拡大が必至だ。
日本が誇る技術や、「こけたら、起き上がる!」逆境の精神力を日本列島で支えてこそ、欧米偏重のスポーツ界を揺るがす日本独自のポテンシャルを世界の舞台で発揮できると信じている――。
(取材・文 末永 恵)