上海の地下鉄の総延長は、既に東京よりも長くなった。北京の地下鉄網も急速に整備されつつある。一昔前は、中国を代表する光景と言えば、天安門前広場を行き交う自転車の大群であったが、それは遠い過去の物語になろうとしている。中国の都市は、急速に近代化している。
どこの国でも経済が発展し始めると、都市は急速に周辺に拡大してゆく。この現象は、かつて東京も経験したことだ。
練馬区は東京都の北西部に位置しているが、江戸時代には練馬大根の産地として有名なところだった。江戸市中への農産物の供給基地だったのだ。それが、西武池袋線が開通すると、練馬区の農地は急速に住宅地に変わっていった。
鉄道の駅周辺で地価が急騰した。それは、駅から遠く離れた、バスに乗り換えて行かねばならないような地域にまで及んだ。
この現象が進行する過程で、土地を売って儲けたのは農民だった。日本では農民が土地を所有していたので、地価高騰の最初の受益者は農民であった。都市周辺の農民が土地成金になったのである。
農地を手に入れ宅地を造成する「土地開発公社」
ところが、中国の農民は土地を売って成金になることができない。それは、中国の土地が公有制になっているためである。
中国は政府が独裁体制を取っている他は、資本主義国となんら変わることがないと考えている人も多いようだが、その認識は間違っている。こと土地の所有形態に関する限り、中国は共産主義国である。
中国の農地は村が所有している。農民は村から農地を借りて耕作している。それは、集団で農業を行った人民公社時代のなごりと言ってもいい制度である。
その中国でも、経済発展に伴い、北京や上海などの大都市周辺には宅地開発の波が押し寄せてきた。
中国において、農地から宅地を造成しているのは民間会社ではない。地方政府が管理監督する「土地開発公社」が行っている。中国の土地は、宅地であっても公有制なのである。民間が携わることはできない。
土地開発公社が農地から宅地を造成しようとした場合、公社は村と交渉して、所有権を譲ってもらうことになる。村の代表は村長や村民委員会であるが、それらは、中国の末端行政組織である。