カウリスマキの『過去のない男』(2002)での「演技」でカンヌ国際映画祭「パルム・ドッグ賞(Palm Dog Award)」を獲得した名犬タハティの孫ライカである。
ライカもパルム・ドッグ賞審査員特別賞を受賞、少年と心を通わせる友となる老夫婦の愛犬を、さりげなく「演じ」ている。
「If you pick up a starving dog and make him prosperous he will not bite you. This is the principal difference between a dog and man.」とはマーク・トウェインの言葉だ。
権力者であろうが、不法移民だろうが、人間と違って、然るべき態度で接すれば、犬は裏切ったりしない。
高齢者に安らぎをもたらしてくれる犬
そして、マルセルのような高齢者にとっては、安らぎを与えてくれる人生の大切な親友ともなる。
長年公務員生活を送って来たウンベルトは、いまは引退し、僅かな年金を頼りに、愛犬フライクとアパートの小さな一室で暮らしている。
しかし、部屋代はたまり、年金増額を訴えるデモに参加しても何の解決にもならない。体調不調で入院した時も、何とか入院期間を延ばそうと一芝居うった。その間、食費が浮くのだ。
ところが、アパートに戻ってみれば、部屋は勝手に改装され、フライクも行方不明。フライクとは「動物愛護局」で何とか再会したものの、金策尽きたウンベルトは自殺を思い立つ。しかし、自分が死んでしまえば、残されたフライクは・・・。
庶民、弱者視線で名匠ヴィットリオ・デ・シーカ監督が描く『ウンベルトD』は1952年制作のイタリア映画。「戦後」の空気感も残る作品だが、核家族、少子高齢化が進むいまに通じるものは少なくない。
世に見放され未来を見失った高齢者が、愛犬の未来を案じるところがもの悲しく、「孤独死」を嫌い、高齢者への賃貸住宅の「貸し渋り」が常態化するいまの現実も思い起こさせる。
世界には野犬が4億頭以上いると言われているが、近くで食糧をあさる彼らを見る目は冷たい。
野犬には狂犬病という大きな問題がある。撲滅され、そんな問題のない日本であっても、野犬は「動物愛護局」などが「保護」する。