良質のモチベーションしか通用しない時代

 忘れてならないのは、この10年、20年の間に仕事で求められるものが大きく変化していることだ。生産現場にしてもオフィスや店舗にしても、以前は決まった仕事をこなせばよく、モチベーションの質はそれほど問題にならなかった。働いた時間と仕事の成果はおおむね比例していたので、受け身で渋々働いていても業績に目立った悪影響は表れなかった。

 ところがITを中心にした技術革新によって定型的な業務は大半が機械やコンピュータに取って代わられ、どの職場でもアイデアや知恵、判断力、洞察力といった人間特有の能力がいっそう重要になった。それを生み出すのは質の高いモチベーションである。

 私生活へのしわ寄せが気になっていては、決して質の高いモチベーションは生まれない。それは日本企業がグローバルな競争を勝ち抜くうえで決定的なハンディとなる。それでもモチベーションの質、すなわちどれだけ前向きな意欲をもって働いているかは外から見えないだけに管理するのも困難だ。

 したがって質の高いモチベーションを引き出すには、私生活とのトレードオフのようなやる気の阻害要因を取り除くとともに、成果に応じて有形無形の報酬(仕事の楽しさ、やりがいなど内的報酬も含まれる)が手に入るような仕組みをつくるしかない。

 少々残業を減らしても残業がある限り私生活とのトレードオフは生じるので、モチベーションの飛躍的向上は期待できない。「残業削減」ではなく「残業ゼロ」を目指すこと。この連載の第2回(「もうやめた方がいい『社員一丸となって』の掛け声」)で述べたように、組織と仕事の仕組みを変えればそれは不可能でない。経営者の決断がカギになる。