「一億総活躍社会」政策における最大のチャレンジと言われる「働き方改革」。そのなかで特に注目されている論点のひとつが、長時間労働の是正である。国内の労働力人口が継続的に減少するなか、ワーク・ライフ・バランスを改善し、労働参加率の向上につなげることが目的だ。これを受け各社では、時間指定で従業員を強制退社させたり、規定を越えた残業に罰則を設けたりなど、長時間労働是正のための取り組みを活発化させている。民間のシンクタンクが行ったあるアンケートでは、調査対象となった1万2,000社のうち、約80%が、残業時間の削減に「何らかの形で取り組んでいる」と答えていた。
その一方で、長時間労働是正の動きによる弊害も生じ始めている。
“見えない残業”の増加が招く生産性の低下
業務の整理や見直しを行わないまま、会社が残業を厳しく規制し、同じ業務量を規定時間内にこなさなければならない……となれば、自宅へ仕事を持ち帰り、会社に申告せずに残業する「持ち帰り残業」の増加が懸念される。
株式会社アイキューブドシステムズが2017年に行った調査によると、「仕事を持ち帰り、自宅や外出先で早朝・夜間・休日などに仕事をしている」と回答した人は約5割(44.8%)だった。持ち帰り残業をしている人の月平均における持ち帰り残業時間を見ると、20時間以上という人も10%以上存在している。さらに、このように持ち帰り残業をしている人の8割以上が、それを会社に申告していないという。
記録に残らないサービス残業や持ち帰り残業では、従業員個々人の労働を適切に評価することが難しくなる。そのことにより、従業員のモチベーションが低下や心身のストレスにも影響を与えかねず、結果的に労働生産性の低下へとつながってしまう可能性があるのだ。