パナマから隣接するコロンビアとの国境を越える場合、中南米では唯一、国境を陸路で渡ることができない(両国を結ぶ自動車道がない)。国境を渡る手段は飛行機か船しか選択肢がない。

パナマシティの摩天楼

 船で渡る場合は5日ほどかかる。素晴らしい船旅だと言う人もいるが、運が悪いとドラッグパーティー船に当たる場合もあり、そうなると女性の場合は特に危険である。船は無法地帯となり、ラリった男たちに女性が慰み者にされるという事件も過去にあったらしい。

 被害に遭っても、ここは中南米。どこの国の海上で起きた事件なのかが証明しにくく、また、企業が運営しているルートではないため何が起きるか分からないというリスクが伴う。

 パナマから飛行機でコロンビアに入国する場合、出国のための航空券の提示を求められることがある。たとえ出国時はジャングルの中を歩くつもりでいても、場合によっては、出国用の航空券をバカ高い正規料金で買わされることになる。

 コロンビア入国の際、私の列の前の人は出国用チケットの提示を求められた。私の場合、こんな奴が過酷な不法就労に耐えられるわけがないと入国審査官が即座にジャッジしたのか、そのままスル-パス。しかし、たまたま運良く問題がなかっただけで、ここで引っかかると1000ドル近い出費を余儀なくされるらしい。

 CNNやBCCなどに影響された西側情報筋によると、コロンビアは危険なエリアだというが、私の印象では、意外にも町にはモノが溢れ、新車が多く、人々は豊かで、物盗りを捕まえるためのセキュリティーの姿もほとんど見かけない。むしろ米国の方が相対的に治安が悪いように映る。

肌で感じる社会のヒエラルキー

 中米は米ソ冷戦時代には東西イデオロギーの激しい代理戦争の舞台となった。大航海時代以降つい最近まで、欧州や米国に翻弄され続けてきた経緯がある。

 ヨーロッパから来た征服者が、インディヘナやマヤ、アステカなどの先住民を差別・虐待・虐殺してきた忌まわしい過去。キリスト教伝道師のラス・カサスらはスペインの植民地で先住民保護に尽力したが、それが逆に後に労働力の代替としての黒人の奴隷貿易発展へとつながっていく。

 そして現代においても白人、混血、先住民と社会のヒエラルキーが分かれる状況が続いている。残念ながら、それを肌で感じることがあるのだ。

 中南米をはじめスペイン語圏の人々はアジア人に対して「チーノ!」とそしる傾向にある。最初、私はこれがあまりに日常的なので、差別用語ではなく、案外、日本人が白人を「外人」と言うのと同じように、ただ「アジア人」を意味しているだけだと思っていた。だが、グァテマラで生まれ育った日系人によると、どうやらそうではないらしい。

 黒人の奴隷制度が廃止されて以降、それに代わる労働力として、中国、日本などから多くの移民が中南米に押し寄せた。そして、誰もやりたがらない、汚くてきつい仕事を請け負い、アジアの移民たちは社会の下層に位置づけられるようになった。

 金持ちになった日本や韓国などのアジア人旅行者が数多くこの地を訪れるが、それらに浴びせられる「チーノ!」という言葉は、この地域にはびこる根強い蔑視がいまだ強固に存在する証しらしい。