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(文:西野 智紀)

Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男
作者:佐々木 健一
出版社:文藝春秋
発売日:2017-06-19

“とにかく私の人生は面白い。安定とは無縁だった”

 気象学者、藤田・テッド(セオドア)・哲也は、自身の歩みを回顧して、そう語った。本書『Mr.トルネード 藤田哲也 世界の空を救った男』は、彼の生涯をつぶさに書きとめた評伝であるが、この引用の言葉どおり、とんでもなく面白い。なにせ、気象学者ながら、ひじょうに多彩な顔を持ち、絶えず変化する気象現象のように数奇な道のりをたどってきたのだから。

 最初に略歴を書いておこう。1920年、福岡県に生まれた藤田は、明治専門学校(現在の九州工業大学)を卒業後、助教授に就任。1953年に渡米し、以後シカゴ大学にて40年以上にわたり局地的な気象現象について研究を重ねる。その後、竜巻の強さを示す階級表「F(フジタ)スケール」の提唱や、飛行機の墜落事故を引き起こす積乱雲からの下降噴流(ダウンバースト)の研究といった業績により、気象学史にその名を残す。1998年に他界。

 このように輝かしい経歴を持ち、さらにはフジタテツヤという日本人に馴染み深い名前であるにもかかわらず、日本ではほとんど知られていない。

 NHKのディレクターである著者も、Fスケールの考案者としての藤田博士は知っていたが、ダウンバースト研究については当初ほとんど知らなかった。しかし、書店で何気なく手に取った『嵐の正体にせまった科学者たち 気象予報が現代のかたちになるまで』(ジョン・D・コックス著、堤之智訳、丸善出版)という本にて、藤田がダウンバーストを見抜いたことが強調されている点に惹かれ、アメリカ全土で取材を行い、彼の人生を追いかけ始めた。その結果、略歴から零れ落ちた博士の魅力が次々と判明したのである。