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「またぐらの表現に意を凝らした男性裸体像」は美術史の重要な研究テーマ。目をそらさずしっかりと鑑賞したい(写真はイメージ)

(文:吉村 博光)

せいきの大問題: 新股間若衆
作者:木下 直之
出版社:新潮社
発売日:2017-04-27

 公の場で「股間」という言葉を連呼するご無礼をお許しいただきたい。ただ何分、この本(『せいきの大問題: 新股間若衆』)のテーマが「股間」なのだから仕方がない。できればレビューなど書かずにすませたかったのだが、面白かったのだから、これもまた(股?)仕方がない。著者は東大大学院教授で雑誌「芸術新潮」から生まれた本だから、最初は、私には難しすぎると思った。子供の図鑑のように図版だけ見ようと思っていた。ところが私は、一気読みしてしまったのである。

 そこには、私が生来のダジャレ好きだというのも、大きく寄与している。本書の副題「新股間若衆」は、言うまでもなく「新古今和歌集」のもじりだ。馥郁たる芸術の香りを巧みにとりいれた、「本歌取り」ともいうべき効果を生んでいる。

 最初にこの素敵なダジャレを目にしたとき、わが人生に大きな影を落とした、あるエピソードを想い出さずにはいられなかった。「新股間若衆」に対抗するわけではないが、薬師丸ひろ子のデビューアルバムは「古今集」という。当時、中学生だった私の仲間は、薬師丸派と原田(知世)派に分かれて、互いを口汚く罵り合っていた。

 薬師丸派の領袖だった私に大きな痛手を与えたのが、偏差値の高い親友からの一言だった。「お前ら、股間集で元気を出してんじゃねぇ!」。そのアルバムには、竹内まりやが作った名曲「元気を出して」が収録されていたのである。私は今も、その時の心の痛みが忘れられない。しかし、だからといって、アルバムの価値を損なうものでは断じてない。