『郭台銘の恋人 シャープ :台湾に買われた百年企業』を台湾で出版した、ジャーナリストの姚巧梅(ようこうばい)氏にインタビューした。
彼女は自分でも本を書くが、曽野綾子さんはじめ日本の本を中国語に翻訳し台湾で広めたりしている。ぼくが2014年に書き下ろした「1%の力」(河出書房新社)の中国語訳本も手がけた。
2015年、ノーベル文学賞を受賞したベラルーシの作家、スベトラーナ・アレクシエービッチ氏と2003年にぼくが対談していたことを調べ、当時の対談の様子も本に挿入した。日本にはない「1%の力」を出版してくれた。
実は彼女がぼくをインタビューしに来たのだが、彼女の「シャープの本」が面白いので、逆にインタビューした。話は発展して、ぼくが今年8月、台湾で3つの講演に行くことになった。
鴻海が成功した理由
鎌田:鴻海(ほんはい)の郭台銘(かくたいめい)会長は、「シャープ買収は第2の創業」と言っている。
世界に120万人の従業員を擁し、年間5兆元(約19兆円)の売上高を誇る企業のリーダーとして、他ブランドの電子製品を作るOEM(相手先ブランドによる製造)王から何を目指しているのか。
姚(よう):鴻海は1974年に小工場から創業し、台湾企業の大陸進出時期に急速発展している。生産力、従業員数、工場数、売上高いずれにおいても急成長しており、現在の鴻海は世界最大の電子機器専門受託生産(EMS=electronics manufacturing service)企業である。
鴻海が今日の規模を有するに至ったのは、経営戦略の成功が主要原因である。生産規模の拡大、有利な調達、工場の分散、素早い調整、品質確保、2012年シャープとの関係構築、多角化経営。
その中でも最も強いものは、強大な生産規模、高い製造技術とコストコントロール、価格戦略とグループ指揮経営が他社より優れていると言える。
しかし、鴻海は経営には成功しているが、中国での従業員飛び降り自殺事件などのマイナスのイメージがある。また現在の経営戦略には革新性がなく、他の企業に模倣される可能性が極めて高い。
これにより、鴻海は「科学技術サービス」企業への転身を明言している。呂芳銘副社長は、「世界展開、ビジネスモデルの進化と投資戦略、他分野へ発展」と語り、鴻海は生まれ変わろうとしているという。