現在、私は大学で教員をしている。学位は医学博士で、介護福祉士でも社会福祉士でもないけれど、問題関心は一貫して地域の医療介護にある。
元々、地域包括ケアシステムのモデルの1つでもある、信州の諏訪中央病院において、鎌田實先生と共に様々な地域医療の改革に取り組んできた。
1980年代、我が国で初めてデイケアを実施し、訪問看護をシステマティックに展開し、医師・看護師・リハビリ職員と共に患者さんの家々を毎日訪ね歩くなど、MSW(Medica lSocial Worker)として、介護保険の原型のような仕事をしてきた。
その後、大学に戻り、大学教員の傍ら、ワタミの介護、メッセージ、ヒューマンライフケアという我が国を代表する介護の上場企業の顧問を務めたり、セントケア、やさしい手という有名企業の教育担当を引き受けたり、医療と介護の一体化したメディカルグループの理事長などを歴任してきた。
理想と現実のギャップ
大学教員はともすれば現実から乖離した机上の理論を振りかざして、現場に提言や苦言を行う存在と一般的には思われているように思う。そういう「非現実派」の学者になりたくないので、常に現場との接点を持ってきたのだ。
「理想と現実のギャップ」とよく言われるが、大学で教えることは、当然ではあるけれども「理想論」だ。
現場で働く人々は、理想を十分に識って、現実を理解しながら、現実を理想に近づけるべく生涯努力するのが本当のプロだと考えている。そのため、医師や看護師というプロは、身につけた知識と技術をもって、患者さんを虐待しないし、生涯学習を継続してステップ、ラダーを上っていく。
介護福祉の現場のプロは介護福祉士をはじめとする介護職たちだが、そこには残念なことに利用者虐待や、繰り返される離職という、疑似プロフェッショナルとしての重い現実がある。
教育者として常々思うことは、私たちがきちんと理想(=向かうべき途)を伝えきれていないのではないかということだ。
講義の中で「現実はそうではないこともあるんだけれど、理想はこうなんだよ」「諦めちゃいけないんだよ」と、繰り返し伝えているだろうか。医療・福祉に関わる職業人として、自らの到達目標がないのは、非常につらいことだと思う。