野球というスポーツの魅力を改めて教えてくれたWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、米国の初優勝で幕を閉じた。
日本は準決勝で惜敗し、ベスト4止まり。同様に、ベスト4となったオランダは、4番に座った東京ヤクルトに在籍するウラディミール・バレンティンが絶好調、その強力打線が魅力だった。
そんな彼らの出身地は、カリブ海の島嶼部、とのイメージだが、実のところ、結構、「本土人」もいる。ソフトバンクのリック・バンデンハーク、元楽天のルーク・ファンミル、といった長身投手たちに多いのだ。
オランダ人には、彼らのように「Van」のつく姓が多い。
差別社会では出自の分かる名はリスクに
日本語表記は「ヴァン」「バン」「ファン」と様々だが、国を代表する有名人フィンセント・ファン・ゴッホ(ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ)、学校で習ったはずの「ファンデルワールス力」の物理学者ヨハネス・ファン・デル・ワールス、サッカー界にはロビン・ファン・ペリシーという名ストライカーもいる。
ロックバンド、ヴァン・ヘイレンのエドワードとアレックスの兄弟もオランダ生まれだし、『チキ・チキ・バン・バン』(1968)の愉快なミュージカル映画スター、ディック・ヴァン・ダイクにもその血が流れている。
「from」「of」を意味する前置詞で、出身地などが続く。ついでに言えば、ファン・デル・ワールスの「der」は定冠詞である。
米国版浦島太郎「リップ・ヴァン・ウィンクル」の物語もオランダ系移民の伝説がもと。
フィクションの有名人なら「吸血鬼ドラキュラ」のヴァン・ヘルシング(Abraham Van Helsing)もアムステル大学名誉教授。1931年のユニバーサル映画版でも、オランダ系米国人俳優エドワード・ヴァン・スローンが演じていた。
出自が推察できる姓は少なからずあるが、差別社会ともなれば、そのことが不利益をもたらすこともある。
18世紀後半のオーストリア・ハンガリー2重帝国に始まる4世代にわたるユダヤ人一族の物語『太陽の雫』(1999)では、主人公たちが、「ゾネンシャイン」から「ショルシュ」へと姓を変える。
法曹である兄イグナツが、出世のため、ユダヤ人を思わせる姓からハンガリー人らしいものにしようというのである。同時に改姓する弟グスタフも、医者仲間のスロバキア人やセルビア人も変えている、と語っている。
そして、「祖国に同化する権利」を信じ、支配階級への招待に惹かれるイグナツ、腐敗はびこる特権社会を敵視し、夢は革命と語るグスタフ、「野にある草のように生きたいだけ」という義妹でもあるイグナツの妻ヴァレリー、三者三様のスタンスの物語が展開していく。
1914年6月、オーストリア皇帝にしてハンガリー国王フランツ・ヨーゼフ1世の世継ぎたるフェルディナント大公がサラエボで暗殺され、第1次世界大戦が勃発すると、出世を果たした兄弟は、主席判事、従軍医局高官となって、戦地へと向かう。
開戦時、ハンガリーとカルパチア山脈を介し接するルーマニアは中立を宣言していた。国王カロル1世が、ドイツ、ホーエンツォレルン家出身だったこともあり、独墺伊3国同盟に加わっていたのだが、それを破棄したのである。
両陣営が参戦工作に走った。ルーマニアは、トランシルヴァニアを要求。連合国は受諾した。
1916年8月、参戦したルーマニアは、トランシルヴァニアへと侵攻するが、同じ頃、同盟国軍がブルガリアから北進。南部への主力投入を余儀なくされ、侵攻は1か月足らずで終った。そして、敗退を続けるルーマニアは、広範な地を占領されることになる。