前回、完成品在庫を低減するために工場の操業を休止することの問題点をお話ししました。工場の操業休止は購入品や仕掛かり在庫を増やし、サプライヤーの在庫を増やし、資金繰りを危うくするということを中心にお話ししました。

 今回は操業休止した場合の、現場運営の問題を中心にお話しします。

事務員、技術員、技能員が区別なく日々改善

 トヨタ自動車が設立された大きな目的は、「日本人の頭と腕で世界に通用するクルマを作る」ことでした。従業員は、良い車を作るという目的に向かって協力し合う仲間であって、事務員、技術員、技能員の区別は、活躍する職場が違うだけで、基本給も発言力も同じでした。

 職場に掲げられているのは「よい品、よい考え」のスローガン。全従業員は、一丸となって知恵を出し合い、改善し、日々進歩し、会社と共に成長していく──。これが私が教えられてきた本流トヨタ方式の基本理念の1つでした。

 現に生産の現場では、より効率の良い職場を目指して自分たちでコツコツと改善していく活動はもちろんのこと、自分の担当している部品のVA提案活動もしてきました。1970年代からは現場の技能員からなるプロジェクトチームを編成し、開発中の試作車を組み付け、作業上の問題点を指摘したり、自職場の生産準備計画を自ら作り、作業訓練をし、垂直立ち上げの中心的な活動を展開してきています。このノウハウを持った技能員が、海外工場で現地の人の指導に当たってきたのです。これが本流トヨタ方式の目指した現場なのです。

 一方、欧米系の企業では、考え、命令する「事務・技術員(ホワイトカラー)」と、作業するだけの「技能員(ブルーカラー)」とが厳然と区分けされています。現場の技能員が知恵を出し、職場を改善することなどは全く想定しません。例えて言えば、現場に設置されたロボット群と同じで、プログラムを入れなければ自分たちでは何もできないと考えます。

 減産になった時、生産規模に見合った体制にするには設備や要員の配置換えが必要です。これらはホワイトカラーや、設備メーカーの仕事ですから、現金支出を必要とします。「余った人も設備も処分できる環境ではない」と判断すれば、現金支出を避け、工場を操業休止することになります。休止すれば電気代だけでも稼げると考えるわけです。

 では、前者の本流トヨタ方式の職場ではどうでしょうか。

 技能員は技術員と同等の実力を持つように育てられ、先に述べたように、新車準備から海外工場の立ち上げ支援までこなしています。ですから減産になった時、技能員は減産に対応した職場配置を自分たちで企画し、自分たちで実施できるのです。

 トヨタでは創業以来、70年間、それを実際にやってきました。実施すること自体が、さらに現場を鍛えることになります。

 そして、新しい生産体制に向けて知恵を絞り、汗をかき、苦労することは、会社が困難に立ち向かう中で、会社の一員として会社に貢献していることを実感し、自分たちを誇らしく思える時間でもあるのです。まして「100年に1度の大不況」と言われれば、心ある社員は、応分の働きをしたいと思い、号令を待っているのです。

減産時には実験、設備改造、人材育成を

 スケールは小さいけれど現場にとって大事なお話をしましょう。トヨタでは「その他時間」と言っていましたが、どこの会社でも職場ミーティング、作業訓練、小集団改善活動、教育などを生産時間外に行う予算(時間)が与えられています。平常時、現場の監督者(現場のリーダー)は、この時間(1人1日数十分)を工面して、部下を育て、職場を強化し活性化する任務を持っています。