2月2日 日本音楽著作権協会=JASRACが、来年1月から「音楽教室」での著作権料として年間受講料の2.5%を徴収する方針を発表しました。
にわかに社会問題のごとく取り上げられ、ネットではかなり素っ頓狂なやり取りも目にしました。
この件については、親しい同僚で公私にわたってお世話にもなっている玉井克哉教授がJASRAC外部理事として1人で矢面に立っておられる感があります。
逆に言うと、音楽著作権で食べているはずの、私たちクリエーターサイドからのきちんとした議論を目にしません。
そもそも音楽著作権とは何のためにあるものか、音楽教室とはどういうものか、といった本質を含め、複数の観点から考えてみたいと思います。
同時に、水と空気とソフトウエアは無料と思っている日本の風土で、クリエーターがどういう暮らしで困っているかも併せて知ってもらいたいという気持ちが強くあります。
音楽著作権登録って・・・?
いきなりですが、いま私は音楽著作権登録の準備をしています。3月に発売する、俳人の金子兜太さんとご一緒するCDブックの準備で、金子さんと私の作品登録、発売するCDの登録などいくつかの作業をしなければなりません。
音楽CDってどうやって作るんでしょう?
今回の場合は、ライブの歌や楽器で演奏する部分と、エレクトロニクスで兜太さんの声を正弦波の束に変換する私の仕事部分に分かれています。
正弦波の束に変換された兜太さんの声は、その繊維の1本1本にリヴァーブをかけたりすると、母音や子音の成分から笛のような音や鈴のような音、お能の鼓やシンバルみたいな音が言葉の中に隠れているのがきれいに取り出せます。
そうしたものとライブの演奏と双方がある「ライブエレクトロニクス」というスタイルをとっています。早い話、前衛の売れない音楽ですね(苦笑)。
これをどうやって作ったか、簡単にお話しましょう。1月19日に私は車で埼玉県熊谷市の金子兜太邸を訪ねて声を録音させていただき、即日素材をピックアップ、シニュソイダル分解というプロセシングをMATLAB上で実施して響きの系列を数十本作りました。
20日以降は、安田講堂で中学高校生向けのオーケストラ音楽教室があったのでリハーサルその他で忙しく数日お休み。
22日の深夜にこれが終わり、23日また少し準備して24日にレコーディング。
ここではソプラノ、ピアノ、弦楽器、管楽器、打楽器と、エレクトロニクスの一部として、白川英樹先生にご指導いただいている導電性プラスチックを用いたポリマーフィルム・スピーカーなども併用して夕方に録音しました。打楽器は銅鑼などを高円寺の打楽器屋さんから借りてきます。
言うまでもないですが、当然、全部経費がかかるわけです。会場を借り、老舗のコジマ録音にまず収録でまる1日おつき合いいただき、マイクロホンその他、高精度の機材をベテランのトッププロが駆使して音を録る・・・。
有限な時間内で有限の手順で実施する職人仕事として、きっちり仕事をせねばなりません。
さて、そうやってできた、マルチチャネルの録音をそのまま売ればCDになるか・・・。
なりません。素材にはいろいろな傷があることがある。そもそも曲順になっていません。これを1月31日にエンジニアのK君が1日かかって取り出して整理し、バージョン・マイナス1.0を作って、ファイル共有システムで私のところに送ってくれます。
これを確認し、一方では内容をチェック、他方では、この仕事をプロデュースしてくださっている黒田杏子さんに、私が自分のPCで手焼きしたマイナス1版のCDを届けます。
黒田さんはそれを持って翌日、熊谷の金子さんのお宅に走り、私はマイナス1版を車のオーディオに突っ込んで移動中など何度も聴いて細かな傷その他を見逃さないよう確認、大まかな修正点のメモを作ってスタジオに戻します。
そして2月6日の夕方、すでに送った明らかなミスの除去に始まって、直しの作業を行います。ここで私は、もともとの金子さんの声から、素材の要素をすべて再度コンピューターで計算・出力し直しました。