2010年9月に、中国の山西師範大学の招聘によって、1週間ほど山西省へ旅をした。

 同大学は山西省南部の臨汾市にある。臨汾は、北京から1000キロほど西南に下った、黄河文明発祥の地と言われる都市だ。

 同じ山西省の太原市にある社会科学院の周芳玲さんが仲介してくれた縁で、講義に行くことになった。周さんは僕の教え子である。

 最近嬉しいのは、大学院やイノベーション研究センターで育てた留学生たちがそれぞれの国に帰って活躍し始めていることだ。山西省社会科学院、タイのタマサート大学、韓国、フランスのトゥルーズ、インド工科大学ムンバイ校などで、それぞれ優れた活動をしている。

 教育や研究で相互に交流できることも嬉しいが、現地の生の声を電話やメール一本で聞くことができるのがありがたい。

 例えば、2010年5月にヨルダン出張した帰りに、タイのバンコクに寄ろうとしたところ、タクシン派の抗議デモが市内で激化していた。そこで、タイの名門タマサート大学の助教授になった教え子、スッパワン君に問い合わせると「報道ほど大袈裟ではない」と言う。そこで、アンマンからバンコクに飛んで、ゆっくりタイ式マッサージを受けて美味しい食事ができた。

 「グローバリゼーション」「グローバリゼーション」と大袈裟なかけ声は聞こえるが、僕が学生に言うのは、「世界中に電話一本で『そっちはどう?』と聞くことのできる友達を沢山持つことが、日本人にとっての本当のグローバリゼーションだ」と。

 その意味で、米国の大学は素晴らしい。世界中から最も優秀な学生を受け入れ、世界の主要ポストに返している。これより優れた外交政策があるだろうか。

大学での講義の直前に尖閣事件が勃発

 さて、山西省師範大学までは結構な道のりだった。

 まず東京から北京に飛び、国内線に乗り換えて約1時間で山西省太原に到着、そこで1泊して、翌朝、山西省師範大学の公用車で南に300キロほど下って臨汾に到着したのである。

 臨汾には約960億トンの石炭が埋蔵され、中国でも炭鉱開発や製鉄が盛んなところである。したがって、最近までは深刻な大気汚染が発生し、2007年には米国の環境研究機関ブラックスミス研究所が臨汾を「世界で最も汚染された10都市」の1つに認定したほどである。

 これは臨汾市にとってショックな出来事だった。今ではずいぶんと大気汚染は改善されたと言われるが、同市のイメージは中国国内でもあまり良くない。