(文:澤畑 塁)
作者:デイヴィッド・J・リンデン 翻訳:岩坂 彰
出版社:河出書房新社
発売日:2016-09-21
触って、触られて――。他人とのそうした身体的接触を、人生最大の愉しみと考える人も少なくないだろう。しかし、「なぜ感じるのか」「どう感じるのか」という問いに何かしらの答えを与えられるという人は、おそらくほとんどいないのではないか。
本書『触れることの科学 なぜ感じるのか どう感じるのか』は、そのようなめくるめく触覚の世界とその裏側に、『快感回路』などの著書でも知られる神経科学者がやさしく案内するものである。
先に断っておくと、本書はあくまでもまじめな神経科学の本である。ただ同時に、本書はある意味で「サービス精神旺盛」な本でもある。実際、性の話を適度に織り交ぜながら、読者を退屈させずに読ませてしまうというのが、この著者の真骨頂といえるだろう。そこで、そうした意味でも興味深いトピックを以下で見ることにしたい。
C線維と「愛撫のセンサー」
いま、タンスの角に足の小指をぶつけてしまったとしよう。そのときおもしろいのは、痛みがいわば二度やってくることである。最初に、小指に痺れるような鋭い痛みが走る。それはたしかに痛いが、でも耐えがたいほどではない。そう思っていると、その数秒後に、今度は重くて鈍い、ズキンズキンとした痛みがやってくる。あなたが苦痛で思わず顔を歪めてしまうのは、おそらくその第二波がやってきてからであろう。