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ヒトは腸内細菌と共生し、多大な恩恵を受けている(写真はイメージ)

(文:澤畑 塁)

あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた
作者:アランナ・コリン 翻訳:矢野 真千子
出版社:河出書房新社
発売日:2016-08-10

 ここ数十年で劇的に増加している慢性的な疾患(あるいは不健康な状態)が存在する。たとえば肥満。アメリカでは1950年代から体重の増加が顕著となり、1960年代の初めての全国調査では、成人の13%が肥満(BMI値が30以上)、30%が過体重(BMI値が25~30)とされた。そして1999年の調査では、その傾向に拍車がかかり、肥満率は倍増の30%、過体重の人も34%に達している。さらに、アメリカのみならず世界全体でも肥満は増加し、この40年で男性の肥満率は3倍以上、女性の肥満率は2倍以上に上昇している。

 増えているのは肥満だけではない。胃腸疾患にアレルギー、自己免疫疾患、そして自閉症などの心の病気もそうである。そのような、とくに20世紀半ば以降に急増している疾患は、「現代病」ないし「21世紀病」と呼ばれている。しかし、そもそも現代病はどうして急増しているのだろうか。

 その点を説明するものとして、近年、わたしたちの体内にいる微生物、とくに腸内細菌が注目を集めている。腸内細菌説によれば、現代病がこれほど増えているのは、腸内細菌の全体(マイクロバイオータ)のバランスが崩れていることと強く関係している。そして、本書『あなたの体は9割が細菌: 微生物の生態系が崩れはじめた』もまたそのような見方をしており、マイクロバイオータと健康の関係を明らかにしようとしている。

ヒトは腸内細菌と共生している

 ところで、わたしたち各人の腸にはなんと100兆もの微生物がいる。そして、彼らはわたしたちにただ便乗しているのではなく、わたしたちに多大な利益をもたらしてもいる。