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カッコウの繁殖方法「托卵」とは?(出所:Wikimedia Commons)

(文:仲野 徹)

『カッコウの托卵 進化論的だましのテクニック』
作者:ニック・デイヴィス、翻訳:中村 浩志
出版社:地人書館
発売日:2016-04-15

 カッコウ、である。見たことがあるような気もするが、記憶は定かでない。しかし、「♪静かな湖畔の森の陰からもう起きちゃいかが」と鳴くという童謡のおかげで、その名前はよく知られている。

 なんとなく爽やかだが、そんなイメージとは裏腹に、カッコウは『托卵』(たくらん)という眉をひそめたくなるような方法によって繁殖することで有名な鳥でもある。

 托卵というのは「鳥が他種の鳥の巣に産卵して、仮親に卵を抱かせひなを育てさせる習性(ウィキペディア)」のことだ。カッコウは、ヨシキリなど他の種類の鳥の巣に卵を産み、自分では卵を温めたり、孵った雛に餌を与えたりすることのない、勝手な鳥なのだ。最近では、好きな男の子どもを産んで、金持ちの男に育てさせる托卵女子とかいうのもいるらしい。托卵女子も悪魔っぽいが、カッコウの雛もまるで悪魔だ。

自分の卵や子どもを殺されたあわれな宿主

 カッコウは、宿主の巣、すなわちカッコウの雛を育てさせられる鳥の巣、に卵をまぎれこませる。産み落とされたカッコウの卵は、宿主の卵より早く孵ることが多く、なんと、孵るとすぐに、せっせと宿主の卵を巣の外に放り出す。それだけではない。先に宿主の卵が孵っている場合には、その雛さえも放り出してしまう。

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リンク先(http://cnx.org/resources/b590c13be565c9db03dc3a3718b6e5c1ca8ea18c/graphics1.png)の写真を見ると分かるように、カッコウの雛は、背中に卵あるいは雛を乗せて、巣から押し出すのである。近縁の鳥類の雛に比較して、カッコウの雛は背中の両羽根の間隔が広くて、こういう行為を容易におこなえるようになっているらしい。恐ろしい話である。そう聞くと、カッコウの雛の姿がいっそう悪魔っぽく見えてくる。